華やかな大舞台の裏側の夢と苦悩…BTS&ソロ活動の軌跡を『Burn the Stage : the Movie』『BTS: Yet To Come in Cinemas』など映像作品で振り返る
BTS“第2章”の始まりを捉えた『j-hope IN THE BOX』
冒頭近く、カメラが捉えるのは、大観衆の前にたった1人で立つその瞬間を前に、ステージ下でスタンバイするJ-HOPEの姿。孤独とプレッシャーに向き合うその表情は、ソロアーティストとしての覚悟を物語っている。2022年6月、BTSがグループ活動とソロ活動を並行していくことを発表。そのわずか1か月後、アメリカ、シカゴで開催された音楽フェス「ロラパルーザ」のステージに躍り出て、“第2章”の先陣を切ったのがJ-HOPEだった。
本作は、その大舞台への準備の日々に密着したドキュメンタリーだ。ステージ上で見せるパワフルなパフォーマンスやまぶしい笑顔の裏で、彼はいかに悩み、葛藤しながら楽曲を生みだしていったのか。ため息をつきながら楽曲作りに逡巡するアルバム制作の過程や、スタッフとの対話を重ねてステージが作り上げられていくまでを丁寧に描く。ステージの輝きは、一夜にして生まれるものではない。その裏にある積み重ねと覚悟を、この作品はまっすぐに伝えている。
「これまでのすべて」が込められたアルバム制作を映し出す『SUGA: Road to D-DAY』
「語りたかったことがいっぱいあったのに、たくさんの夢を叶えてしまったから忘れてしまったのか。それが悲しい」。そんなモノローグから始まる本作は、SUGAが自らの音楽を見つけ出すための旅の記録だ。ミックステープ「Agust D」では内に抱えた不安を表現し、「D-2」では過去と現在を行き来するストーリーをつづってきたSUGA。アルバム「D-DAY」に込めたかったのは、「これまでのすべて」だと彼は語る。その思いを携えて、彼が向かったのはラスベガス、グランドキャニオン、マリブ、サンフランシスコ、東京、そして韓国の春川や平昌。旅先では、スティーヴ・アオキとトランポリンで跳ね、ホールジーとおそろいの髪型でおどけ、アンダーソン・パークと杯を交わす。アメリカのアーティストのスタジオを訪れ、曲が生まれる場所を体感することで、SUGAは次第に音楽の衝動を取り戻していく。
なかでも心に残るのは、東京で出会った坂本龍一との対話のシーンだ。故郷、大邱の小さな映画館で『ラストエンペラー』(87)の音楽に魅了され、以来、坂本から影響を受け続けてきたと明かし、「世界は音であふれている」という坂本の言葉を引用して夢を語るSUGA。その後に披露される、2人のコラボ曲「Snooze (feat. Ryuichi Sakamoto, WOOSUNG of The Rose)」は、ぜひ歌詞を噛み締めながら聴いてほしい。
静かな闘志が感じられる『JUNG KOOK: I AM STILL』
BTSの最年少メンバーJUNG KOOK。本作は、初ソロシングルからソロアルバム「GOLDEN」の活動期まで、約8か月にわたってニューヨーク、ロンドン、ソウルなど世界をかけ回った“黄金の軌跡”だ。ディズニープラスで配信中のバージョンは、2024年秋に日本で劇場公開された映画『JUNG KOOK: I AM STILL』(24)に未収録6曲を追加し、「JUNG KOOK『GOLDEN』Live On Stage」のフルバージョンを収録。さらに、本人のインタビューや、アメリカのアーティスト、アッシャーとのMV撮影シーンなど約55分におよぶ未公開映像が新たに加えられ、より深く、より立体的にJUNG KOOKの素顔へと迫っていく。
英語の発音を何度も修正されながらも「楽しかった」と語る、新しいことに挑戦するのを恐れない精神。「短い間だけ後悔して、失敗を認めて前に進むのが僕のモットー」と明かすように、どんなに困難な状況でも弱音を吐かず、笑顔を忘れない。そのポジティブさは、完璧なステージを届けるための、静かで強い闘志の表れだろう。
そして終盤、バリカンの音が響くなか、兵役を前に髪を切るJUNG KOOKの姿が映しだされる。多くの人に才能を称えられ、世界中のステージに立ってきた彼でさえ、1人の韓国の青年として“その時”を迎える。刹那的にも思えるその瞬間は、観る人にリアルな現実を突きつける。
RM個人の感性や感情をつづる『RM: Right People, Wrong Place』
BTSのリーダー、RMが、2枚目のソロアルバム「Right Place, Wrong Person」を制作する過程を記録したドキュメンタリー。同時にこれは、キム・ナムジュンという1人の人間としての思考と感情を巡る、極めてパーソナルな映像作品でもある。
彼が20代の終わりに差しかかり、兵役を控えるという人生の転機に撮影。2023年2月8日から11月10日までの日々を日記のように記録しながら、RMと“Team RM”によるアルバム制作の全貌を描いていく。ロンドン、ソウル、東京など世界各地を移動しながら、同じ感性を持つ仲間たちと意見を交わし食事をするRM。オーラを消した彼は、誰にも気づかれない土地を旅し、静かに「完全に自分だけの音楽」を紡いでいく。
アルバムと映画のタイトルの「Right」と「Wrong」が係るものが異なるように「なにが正しくてなにが間違っているのかは常に変わっている。他者からすれば、僕はWrongかもしれないし、Rightかもしれない」とRMは言う。答えを明示しない、前衛芸術のような、文学のような作風。それは、RMが愛するアートや本の世界観にも重なっている。2024年の釜山国際映画祭でワールドプレミア上映。CNN Indonesiaは「BTSやK-POPを超え、RMが新しいジャンルや色彩を試みる実験的な姿が描かれている」と称賛した。