【TOHOシネマズ 大分わさだ篇】ベンチシートやエアシューターがあった!?映画館にまつわる歴史&トリビアを大特集
いまはなきベンチシートやエアシューター、併設のこだわりカフェとは?
元営業担当者が当劇場に赴任してきたのは、このエリアが第二商業都市のような形で、どんどん人口が増えていったころだと言う。「ファミリー層を中心に若い人たちが、トキハわさだタウンのことを“わっタン”という愛称で呼んでいました。いまは変わりましたが、確か25年前は、TOHOシネマズの制服はブラウスの上にベストを羽織り、女性はキュロットを着用していた気がします」と当時を懐かしむ。また、当時ならではの設備についても振り返った。「一番大きな3番スクリーンに3人掛けのベンチシートがありました。当時から珍しい形態で、ファミリーが笑顔で楽しまれていた記憶があります」。
さらに「開業当時、コンセッションでは、ポテトとドリンクのセットメニューが350円と、かなりお得な価格で販売していました。お客様が二度見するくらい安かったです」と笑顔で語る。「昔は『ジョンズコーヒー』というカフェも映画館に併設されていました。いまは残念ながら倉庫になっているみたいですが…。そのお店はコーヒーにすごくこだわっていて、バリスタマシンでちゃんと一杯ずつ抽出していたので、コーヒー好きのお客様に好評でした。しかもコーヒーは1杯200円、ホットラテはスタッフがミルクをスチームで泡立てていました。パンも発酵させる段階から作って、焼き立てを提供していて、手間暇かけたサンドイッチ系も人気でした」。
また、ユニークなのは、オフィスにチケット売り場と金銭のやり取りをするために「エアシューター」を使っていたという点だ。「TOHOシネマズとしては珍しいと思います。多分、初導入じゃないですかね。でも何年か経って、途中でお金が詰まって、業者を呼ばないといけなくなりました(苦笑)。お札だといいのですが、硬貨だとバラバラになってしまうので」。
映写室内には、公開時からデジタル切替までの歴代上映作品の映画チラシがずらりと貼り出されているとか。「映画好きだった当時のスタッフが貼りだしたそうで、跡が残ってしまうので剥がさず残しています」とのことだが、従業員だけが見ることのできる映画ファン垂涎のスポットと言えそうだ。
また、公開前から反響が高かった作品は、社会現象級のメガヒットとなった宮崎駿監督作『千と千尋の神隠し』(01)だ。元営業担当者によると「公開時は大変な混雑ぶりで、朝オープンしたらすぐに夕方上映回までのチケットが完売するような状態でした。劇場前には長蛇の列ができあがっていたし、チケットも当時は手販売だったので、大わらわでした」と苦笑い。映画『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)も大変な反響だったそうで「こちらもかなりの人気ぶりでした。特に『ハリー・ポッター』はホウキなどのグッズ系がすごく売れました」という。
熊本地震でも映画館を守った神様の存在
元支配人に当劇場を担当していたころの思い出を尋ねると、2016年4月14日に熊本県と大分県で起きた熊本地震でのエピソードを話してくれた。「すごく大きい揺れで、本震の時、私も夜中に劇場の様子を見に行ったんですけど、その時、遅番のマネージャーがヘルメットを被って待っていたのを覚えています。でも、いろいろなものが棚から落ちてきたのに、事務所の神棚は倒れなかったんです。だからみんなで思わず、手を合わせました。その時、なんて言うか、神様っているのかなと思いました」。そんな加護もあったおかげか、「一部の陳列棚が崩れて、いろいろと片付けたり、整備点検をしたあと、営業することにしました」とのことで、地震後数日で劇場の営業を再開したそうだ。
続いて、当劇場で開催された思い出のイベントについて、元支配人は『天気の子』(19)で声優を務めた森七菜らが登壇した大分凱旋舞台挨拶を挙げた。「森七菜さんはその時、まだ高校生でしたが、大分出身ということで凱旋舞台挨拶に来てくれました。森さんが当時通っていた高校の先生やお友達も来てくださったようで、舞台裏で再会されていました」と笑顔で振り返る。
元営業担当者は「『なごり雪 あるいは、五十歳の悲歌』で、大林宣彦監督が舞台挨拶に来てくださいました。ご当地映画ということで盛り上がりました」と当時を懐かしんだ。
また、開業してから25年となった当劇場だが、「勝手知ったる映画館というか、片肘張らずに来れる映画館ということで、小さいお子さんからお年寄りまで、いまも愛され続けています」と元営業担当者も笑顔で締めくくってくれた。
なおTOHOシネマズの全国17劇場で開催中のアニバーサリーキャンペーンでは、4月から12月の9か月間にわたって、様々なサービスを展開していく。対象劇場は、今回紹介した大分わさだのほか、5周年の池袋、⽴川⽴⾶、10周年の新宿、ららぽーと富⼠⾒、アミュプラザおおいた、15周年の上大岡、20周年の府中、ひたちなか、⽔⼾内原、津島、⼆条、直⽅、25周年の浜松、ファボーレ富⼭、岐⾩、泉北だ。ぜひ最寄りの場所や気になっている映画館をチェックし、お目当ての映画を観に行っていただきたい。
文/山崎伸子