イ・ジェフン&ク・ギョファンを撮りおろし!待望の初共演『脱走』の撮影秘話を語り尽くす
1950年6月25日に朝鮮戦争が勃発してから75年。朝鮮戦争とその後の南北分断はいまなお韓国映画やドラマの不動のテーマだ。イ・ジョンピル監督が手掛けた『脱走』(公開中)は、イデオロギーの対立よりも、いまを生きる若者の姿を前面に打ち出したことで現代的なアップデートに成功した1本だ。今回、PRESS KOREAで主演を務めたイ・ジェフンとク・ギョファンへの撮りおろしインタビューが実現。撮影後も続く仲良しぶりを証明するように終始和やかで、また互いへのリスペクトと名優ならではの演技への姿勢が語られる時間となった。
ク・ギョファン出演の決め手は“イ・ジェフンからの公開ラブコール”
――自由を夢見て南への脱走を企てるギュナム(イ・ジェフン)と、彼を追う北の高官リ・ヒョンサン(ク・ギョファン)の攻防戦が本当におもしろかったです。
イ・ジェフン「脚本を読んだ時、非常にストーリーが直線的で、目標に真っ直ぐ進んでいく展開がとてもスピーディで爽快でした。日常や人生に疲れた人々が解放感を感じて、出口に向かって走り抜けるギュナムの姿を応援し、そして『本当に好きなことをして人生を送っているのか?』と自分自身に問いかけられる作品だと思い、出演を決めました」
ク・ギョファン「私はシナリオと同じくらい監督を重要視します。イ・ジョンピル監督の作品に20年以上前からたくさん学んできたので、出演は至極当然でした。さらに、青龍映画賞のスピーチでイ・ジェフンさんが私と共演してみたいと言及してくださって、『すぐに共演できるといいな』と期待していたところ、彼がこの作品の出演を決めたというんじゃないですか!監督、イ・ジェフンさんに加えて私が参加してトリオになりたかったので、断る理由がなかったです」
二度目の軍人役のイ・ジェフン「新人時代はプレッシャーが強かった」
――イ・ジェフンさんは、『高地戦』(11)のシン・イリョン大尉役もすばらしい演技でした。ギュナムも軍人ですが、また異なるアプローチが必要だったのではないでしょうか?
イ・ジェフン「あれは最年少で(臨時に)部隊を率いる中隊長という責任の重いキャラクターでした。私自身も当時27、28歳の新人だったので、上手く演じられなければ映画に大ダメージを与えてしまうというかなりのプレッシャーがありました。なので、ただ一点を見つめるように集中して臨んだ気がします。そういう新人の未熟さ、プレッシャーを克服しようとする姿勢が投影されていたと思います。それから10年経ち、もちろん責任感はあるんですが、それは私1人だけのものではなく、一緒に作る人とのものだということを、俳優生活を通して気づいたんです。『脱出』も監督、共演する俳優の方々、特にパートナーを信じて演技をすれば、演じるための力になるだろうという信念がありました」
――ギュナムはとにかく走るシーンが多かったですよね。撮影はシビアなものだったのではないでしょうか?
イ・ジェフン「減量と体力的な限界を克服しなければいけませんでした。実際に走ったり跳んだりする時、(撮影用のトロッコに乗せた)カメラには当然物理的には追いつけないのですが、『私はあれに追いつくんだ。でないと撃たれて死んでしまう』という恐怖で、なんとかしがみつこうと全力疾走しました。何度も息苦しくなりましたが、そういうリアリティのおかげで観客の方々が応援してくれるキャラクターになったと思います」
ク・ギョファンが明かすリ・ヒョンサンのアイテムの秘密「内面の不安と弱さを余裕で隠すため」
――ヒョンサンは、リップクリームやハンドクリームといった彼の人柄を象徴する小道具が登場します。
ク・ギョファン「ヒョンサンは気楽そうにしていますが、内面は不安と恐怖に満ちている人物です。だから宝物のようにリップクリームを欠かさなかったり、身だしなみに気を遣ったりしているというふうに見せました」
――アイテムのチョイスがとてもユニークでしたが、ク・ギョファンさんのアドリブで追加されたものもありますか?
ク・ギョファン「すでに監督がシナリオに書き込んでいたものばかりで、それを忠実に表現しようとしました。そういえば…車を奪ったギュナムをヒョンサンたちが銃撃し、その後生存を双眼鏡で確認するシーンで、持ち手のついたオペラグラスを使おうと提案し実際に撮りましたが、いま思えばやっぱり無理がありました(笑)。当初はユーモラスだと思っていたんですが、撮影を進めるうちに自信がなくなって『使わなければよかったな…』と。本編ではカットされたけど、せっかく撮ったので、監督に私の権利を示すウォーターマークを入れて映像を送っていただきたいです(笑)」
イ・ジェフン「でもヒョンサンが用を足した後に、突然ティッシュでマジックみたいな仕草をするじゃないですか。あれはク・ギョファンさんのアイデアだったんです。『わあ、本当にすごい…』と思いました!2人はヒョンサンがこうやっていたずらをしてみせるくらいの気楽に知った間柄であること、そしてギュナムをもっとリラックスさせようとする行動だったんでしょう。とても創造的で、誰でも真似できるものじゃないですよ」
ク・ギョファン「私は現場での偶然がすごく好きで、それを大事にしながら撮影の準備をするんです。あのシーンのイ・ジェフンさんは、実際に幼少期を一緒に過ごし、同じ夢を抱いていた弟のような顔をしていたんです。偶然その顔を見て、久しぶりに会った兄として、ヒョンサンも子どもみたいに遊びたい気持ちなんだろうなという発想が自然とできたんです」
――ヒョンサンがピアノを披露するシーンのために1か月間練習したそうですね。
ク・ギョファン「でも1か月でピアノを上手に弾けるようになるわけではないですし、映画で実際弾いている姿を見せるのは3秒間だけだったので、完璧に弾いているふうに表現するための練習をずっとやっていたんです。もし次の作品で楽器を演奏する機会があっても、上手くできなくてもいいから勢いを見せればいい、現場でエネルギーを見せるのが大事だと思いました」