無垢なる修道女がさらされる試練と恐怖…『死霊館のシスター』や『オーメン:ザ・ファースト』など『IMMACULATE 聖なる胎動』とあわせて観たい修道院ホラー&スリラー
聖女として崇められる修道女が絶大な権力を手にした実話を描く『ベネデッタ』(21)
『ロボコップ』(87)や『氷の微笑』(92)、『エル ELLE』(16)などの鬼才監督、ポール・ヴァーホーベンが84歳にして放った衝撃作。17世紀イタリアの修道院を舞台に、実在した伝説の修道女ベネデッタ・カルリーニの数奇な半生を基にした伝記映画にして異色スリラーだ。
聖母マリアと対話し、奇蹟を起こすとされていたベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)は、6歳で出家してテアティノ修道院に入る。やがて成人した彼女は修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメア(ダフネ・パタキア)を助け、秘密の愛の関係を深めていく。そんななか、「私はイエス・キリストの花嫁」だと主張し始めたベネデッタは新たな修道院長に就任。民衆から聖女と崇められ、強大な権力を手にしていく。
とにかく目を引くのはベネデッタの強烈なキャラクターだ。本当か嘘かわからぬ幻視の力を発揮し、禁忌とされていた同性愛に耽り、粗野で荒々しいカリスマ性を発揮。パワータイプの世界変革者とも、一種のトリックスターと言えるが、結果的にカトリック教会の男性優位や欺瞞を糾弾していく。核にあるのは制度的な抑圧をぶっ壊すアナーキズム。実にヴァーホーベンらしい“修道院もの”だ。2021年の第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品されて、賛否両論の大反響を巻き起こした。
「尼僧が悪魔に取り憑かれる」という設定をいち早く扱った『尼僧ヨアンナ』(60)
偉大なアート映画にして修道院ホラーの原点の一つ。ポーランドの巨匠、イェジー・カワレロウィッチ監督(1922年生~2007年没)が、「尼僧が悪魔に取り憑かれる」という驚愕のオカルト現象と宗教的儀式をいち早く濃厚に扱った名作だ。人間の矛盾や信仰の試練などが主題となり、光と影のコントラストが利いたモノクローム映像と前衛的な演出スタイルで描かれる。
舞台となるのは17世紀半ばのポーランドの修道院。悪魔に憑かれた、若く美しい修道院長ヨアンナ(ルチーナ・ヴィニエツカ)と、それを祓おうとするスリン神父(ミエチスワフ・ウォイト)の関係が物語の軸となる。2人は苦行を通じてしだいに親密さを増し、信仰と欲望の間で揺れる心理的葛藤が浮き彫りになっていく。
「ナンスプロイテーション映画」(『オーメン:ザ・ファースト』の項参照)の先駆的な1本と見做されているほか、悪魔憑きや悪魔祓いというモチーフは『エクソシスト』(73)にも先駆けている。1961年の第14回カンヌ国際映画祭では審査員特別賞を受賞。また、日本では尖鋭的な作品群を世に送りだしていた映画会社、ATG(日本アート・シアター・ギルド)の第1回配給作品としても知られている。