窪塚洋介「自分も登場人物として参加した」と貴重な経験を明かす!『フロントライン』舞台挨拶
世界規模で人類が経験した新型コロナウイルスのパンデミックを、事実に基づく物語としてオリジナル脚本で映画化した『フロントライン』(公開中)。本作でDMATの隊員、仙道を演じた窪塚洋介、仙道のモデルとなった近藤久禎医師、関根光才監督が、6月21日に大阪のT・ジョイ梅田とあべのアポロシネマにて開催された2度の舞台挨拶に登壇した。窪塚たちは上映後、大阪でのエピソードや撮影秘話など、いまだからこそ話せる撮影の裏側を語り尽くした。
最初にT・ジョイ梅田のステージに立った窪塚たち。大阪在住の窪塚は「(大阪に住み始めて)13年ぐらいになるので、ナビを使わずに運転できるようになりました(笑)。関西圏の雑誌で連載もさせていただいていて、総集編が本になって発売になると思うので楽しみにしていてください」と告知をしたところで、客席から「見てます!」という声が。窪塚が「ありがとうございます!感謝!」と返し、会場はアットホームな雰囲気に包まれた。
大阪で窪塚が舞台挨拶に立つことが決定し、急遽駆けつけた近藤医師。DMATとして全国を飛び回りいろんな現場を経験するなかで「実際に一番大変だったのは1年後の大阪で流行り出した変異株だったかと思います。大阪のすべての救急車は現場で2時間以上スタックしてる、クラスターも40を超えるという状況で、我々も支援に入らせていただきました。実際に船で一緒に対応していた医師も何人かいて、そんななかでも医療事業の福祉の方が患者さんのためになにができるかと考えていただいた。大阪のスタッフの方々と一緒に乗り越えたというのは思い出になってます」と、大阪で対応にあたった時のことを振り返った。
そして、「太陽の塔」のドキュメンタリーなど大阪にゆかりのある作品を制作していた監督は「大阪には何度も足を運んでいて、毎回ほっとします。普通にご飯を食べていてもコミュニケーションしてくれるので有難いですね」と大阪の魅力について語った。
今回は2回とも上映後の舞台挨拶ということで、いまだから話せるQ&Aのコーナーを実施。最初に手を挙げた方から「私事なんですけれども、先日妻が妊娠していることが発覚しまして、窪塚さんのファンなので、なにかひと言いただけたらと」というリクエストに、窪塚は「おめでとうございます!夫婦は向かい合うな、寄り添えということで、かれこれ10年ほど仲良くやっております。向き合うと嫌なことが見えたりするけど、寄り添うと前向きな話をするというのがあって。それは、大きな現場で100人と一緒に仕事をしている時もそうで、100人一列になって同じ方向を見てるっていう気持ちでいるようにしていて。自分自身にも寄り添うという感覚でやっています。バーカウンターの法則というんですけど。そんな感じで仲良くやっていっていただければなと思います」と俳優としての現場での心構えも交えながら、窪塚ファンの夫婦にエールを贈った。
続いて「なにを大事に作品をつくっていったのか」という問いに窪塚は「近藤先生がモデルになった仙道という役だったんですけど、今回は近藤先生になるというアプローチではなくて、近藤先生が体験したことを仙道として追体験するみたいなことでした。DMATの方は忙しいのに、いつもどなたかは現場にいてくださって監修していただきました。一心同体という感じで安心感が本当にありました。監督がOKを出してもDMAT的におかしいところがあったら絶対言ってくださいとお願いしてたんです。そのリアリティは胸を張っていいんじゃないかと思ってます」と、窪塚が撮影を振り返る。
近藤医師は「友人からいろいろ感想を聞いていると、窪塚さんのしゃべり方がなぜか僕にそっくりだと(笑)。それはどちらかと言うとしゃべり方というよりも、我々がなにを大切しているのか、それをわかっていただいているから特徴とかも出てきたんじゃないかと思います」と周囲からの感想を受けて気づいたポイントを明かした。
そして1回目の会場を後にした3人は、次の会場であるあべのアポロシネマに到着。こちらでも映画を観たばかりの感動に包まれた雰囲気のなか大きな拍手で迎えられた。
本日2回目に行われたQ&Aでは、最初に「すばらしい映画を作っていただいたことに感謝いたします。私も医療関係者で、自分の勤めてる地域のコロナ患者さん第1号を受け入れた病院に勤めていたのですが、やっぱりその時の誹謗中傷だったりとか、差別を受けたり、すごい電話の対応とかも大変で、実際に同僚が保育園を断られたりとか、本当に現実的でリアルな話を観ても、走馬灯が走ったぐらいでした」という感想があがった。
近藤医師は「ダイヤモンド・プリンセス号だけじゃなくて、特に受け入れた病院もそうだったんですよね。自分たちが起こしちゃったというような罪悪感があったりします。誰も悪くないんだよって、運が悪かっただけだって言って声をかけると、その時点でもう泣き崩れちゃう方もいました」とパンデミックが起きた当初の状況を語る。
窪塚も「ほかの映画にはなかなかないなと思うのは、この映画のなかに自分も登場人物として参加してるっていう」という貴重な経験ができたとしたうえで「5年前のことなんだけど、やっぱりすごい強烈な時間だったから、すごく親近感を持って観ていただいた。映画の力というのを感じています」と真摯な眼差しを向ける。
関根監督は「やっぱり差別って本当に身近にあるっていうか。知らない間に自分たちが差別をする側に加担している可能性がすごくある。だからこの映画ではできるだけ善悪というか、そういうことを描かないようにしておりました。自分はどうだったかなというのを振り返られたらと。明日の見え方が変ってくるのではないかという思いがあります」と制作するうえで本作に込めた思いを明かした。
語り合う感想や質問が尽きず、窪塚は「ちょっとなんかもう、もう1回観ましょうか」と笑いを誘いつつ、時間が許すまでQ&Aが続き、観客と登壇者が直接言葉を交わし合う熱い舞台挨拶となった。
文/山崎伸子