『国宝』が前週末を上回る成績で2位に浮上!“6月の映画興行”に考える、長尺のハンデを乗り越えた異例の大ヒットの理由とは?

『国宝』が前週末を上回る成績で2位に浮上!“6月の映画興行”に考える、長尺のハンデを乗り越えた異例の大ヒットの理由とは?

6月13日から6月15日までの全国映画動員ランキングが発表。前週、初登場でNo.1スタートを飾ったディズニーの実写版『リロ&スティッチ』(公開中)が今週も首位をキープ。週末3日間で観客動員31万2733人、興収4億5529万円と、前週比82%の動員&同81%の興収を収め、累計成績では動員87万6497人&興収12億8000万円を記録している。

SNSで大反響&平日動員も絶好調の『国宝』が、首位に迫る好成績!

歌舞伎の世界に人生を捧げる男たちを描いた『国宝』
歌舞伎の世界に人生を捧げる男たちを描いた『国宝』[c]吉田修一/朝日新聞出版 [c]2025映画「国宝」製作委員会

今週トピックとして取り上げたいのは、同日公開だった『リロ&スティッチ』にリードを許し、前週3位に初登場を果たした『国宝』(公開中)。公開2週目の週末3日間の成績は、動員が31万人、興収が4億5100万円と、前週比127%の動員と130%の興収で、首位に僅差まで迫る2位に浮上。こちらも公開10日間の累計成績は動員85万人&興収11億9000万円を突破している。

この累計成績から初週末3日間の成績と、今週末3日間の成績を引き算して出される“平日4日間”の成績は、動員が約29万5000人で興収が約3億9300万円。同じ計算を『リロ&スティッチ』でやってみると、動員が18万2898人で、興収は約2億6171万円。平日の成績だけ見ると、土日に集客しやすいファミリー向け作品である『リロ&スティッチ』よりも『国宝』のほうが大きく上回っており、今年3月の『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』(公開中)と『ウィキッド ふたりの魔女』(公開中)と同じ現象が起きているように見える。

【写真を見る】GWと夏休みに挟まれた6月は、日本映画の大ヒット作が生まれやすい?
【写真を見る】GWと夏休みに挟まれた6月は、日本映画の大ヒット作が生まれやすい?[c]吉田修一/朝日新聞出版 [c]2025映画「国宝」製作委員会

ただ『ドラえもん』と『ウィキッド』の時は、前者が春休み突入前で平日の成績が極端に低く、対してリピーター需要が高かった後者も2週目の週末3日間の動員は初週対比74%と至って通常通りの推移を見せていた。『国宝』の場合は、先述の通り2週目末で数字を伸ばしており、1日あたりの平均動員も初週末3日間で8万人超え、平日4日間でも7万人超え、2週目末3日間でも10万人超えと、数字を落としてもおかしくない平日もまったく落ちていない、極めて異例の興行を見せているのである。

そもそも6月はゴールデンウィークと夏休みに挟まれ、相対的にみると閑散期のイメージが強い時期。しかし実際ここ20年ほどの邦画興行を簡潔に遡ってみると(本国と公開タイミングを合わせることの多い洋画は一旦除かせてもらう)、大ヒット作が相次いで公開されている時期でもある。それは、競合するタイトルが決して多くないことや宣伝期間がゴールデンウィークに重なることで多くの観客にリーチしやすいなど、いくつもの理由が考えられる。

任侠一家に生まれ、歌舞伎の世界で才能を開花させていく喜久雄を演じた吉沢亮
任侠一家に生まれ、歌舞伎の世界で才能を開花させていく喜久雄を演じた吉沢亮[c]吉田修一/朝日新聞出版 [c]2025映画「国宝」製作委員会

また、そうした6月公開の大ヒット邦画の傾向としては、「テレビドラマ劇場版など、既存の人気タイトル」(『花より男子ファイナル』や『真夏の方程式』)、「作家性の強いタイトル」(『ザ・マジックアワー』や『剱岳 点の記』、『万引き家族』)、あるいは引きの強い宣伝方法で新たなムーブメントを起こそうとする「野心作」(『電車男』や『デスノート 前編』『告白』『カメラを止めるな!』)の3パターンに分類することができる。ここで挙げた作品はいずれも興収25億円を超えており、閑散期を乗り越えようとする各映画会社の創意工夫の成果ともいえよう。

『国宝』の場合は、李相日監督というエンタメ系作品から重厚なドラマまで得意とした作り手の渾身作とだけあって、「作家性の強いタイトル」に分類できるだろうか。このパターンは、比較的あらゆる年代の客層にリーチしやすく、“映画館で映画を観ること”に慣れた観客も多いことから、175分ある『国宝』のような長尺の作品でも受け入れられやすいと推測できる。かつては長尺の作品というと、1日の上映回数が限られることから興行的に成功しづらいと思われていたが、朝早くから夜遅くまで上映ができ、かつフレキシブルなスケジュールが組めるシネコンでは、観客の心理的ハードル以外のハンデはないと考えてもいいだろう。


当主の息子で将来を約束された俊介を演じる横浜流星
当主の息子で将来を約束された俊介を演じる横浜流星[c]吉田修一/朝日新聞出版 [c]2025映画「国宝」製作委員会

さらに“歌舞伎”という題材から、平日の動員のカギを握るといっても過言ではないシニア層の集客が見込め、吉沢亮と横浜流星というキャスティングによって若い客層にもリーチする。とりわけ昨秋ヒットを記録した『正体』(24)で証明されたように横浜のファンの口コミの拡散力はなかなかのものであり、SNSでの反響の大きさは週末成績の向上にもつながりやすい。あらゆる要素が相互作用をもってプラスに働いている。本作と同じ李監督と原作者の吉田修一のタッグといえば、『悪人』(10)が興収19億8000万円を記録しているが、ほぼ確実にそれを超える成績を収めるはずだ。

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