アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第40回 笑い声
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第40回はついにピンキーが出動!?
遠山の説明によると、怪物達が急に硬直したかと思うと、力無くヘナヘナと地面に横たわり始めたというのだ。大急ぎで解析室に戻ると、怪物達はまたゆっくりと動き出し、溶解液を吐き始めていた。
「あれ?戻ってしまっている・・一体何の曲で反応があったんですか!?」
「はい、おそらくですが今流れていますtrfの『EZ DO DANCE』です。この曲の流れ始めで急に変化が現れたんです。しかしまた活動的に戻ってしまいました・・・」
『EZ DO DANCE』といえば小室哲哉プロデュースの90年代を代表する名曲の一つだ。曲はリズミカルなサビの部分を迎えていたが、怪物達はすっかり元気を取り戻してしまっている。
「たまたまだったんですかね」
「いや、しかし全ての怪物が同じタイミングで反応を見せたんだ。もう少し聴いてみよう」
吉崎がツマミを回してボリュームを上げた。曲はサビを終え、間奏部分から2番に差し掛かった。
「あ!!見て下さい!また反応した!ほら!」
遠山が興奮気味にモニターを指差した。確かに怪物達が硬直し、力無くうずくまったように見えた。しかし10秒もするとまた先程のように身体を持ち上げ、徐々に活動的になった。解析班の野尻がパソコンで曲の頭出しをしながら推理した。
「おそらくイントロ部分のどこかの箇所かと思われます。今度はイントロを細かく一時停止しながら調べてみましょう」
冒頭の『3 2 1 Break Down』の声から再生しては止め、反応を伺った。どうやらこの箇所ではないらしい。次の箇所を流すと、奇妙な民族調の音楽が流れた。しかしここでも無反応であった。次の瞬間、都築は叫んだ。
「止めて下さい!怪物が止まった!野尻さん、今の箇所をもう一度・・」
野尻が調整してピンポイントで指定の箇所を流すと、確実に怪物達が反応を示した。
「笑い声・・・ 笑い声の部分だ!もう一度繰り返して下さい!」
その場にいた誰もが確信を持った。『EZ DO DANCE』のイントロで流れる甲高い笑い声に反応し、怪物達が身をよじっているのだ。野尻は笑い声の部分だけを切り取り、その箇所のみをループしてみた。すると怪物達は痙攣したりジッと横たわって動かないといった反応を見せた。
「これは誰の笑い声なんだろうな、男性だな都築」
「ええおそらく。DJ KOOか、SAMか、はたまた小室哲哉が自分の声をアレンジで入れたのか」
遠山が割って入った。
「そこは誰でもいいんじゃないですか。だけど野尻さん、どうしてこの声に反応したんでしょう」
「ええ。これはあくまでも推測ですが・・。我々はガラスや黒板を引っ掻く音を嫌がるでしょう?食べ物や趣味嗜好品には個人個人で選り好みがあるのに、あの音に関してはほとんどの人間が不快に思う。これは何故だかわかりますか?」
「さあ・・・本能的に不快だとしか言えませんが」
「そうなんです!諸説ありますが、我々猿を祖先に持つ人類は、本能的にあの音が嫌なんです。とある研究によると、あの音は猿が危険を知らせるために出す鳴き声に酷似しているのだそうです。つまり・・」
「そうか!警告音として耳に入るように、DNAレベルで不快に感じるようになっているのか」
「吉崎さん、その通りです。サイレンや警報がわざと危機感を煽る音で作られているのと同じです。あの怪物達にとっての警告音のようなものが、この笑い声に酷似しているのかもしれません」
「なるほど・・!では野尻さん、この笑い声をよりクリアにして、ループする音源の制作をお願いします。都筑と遠山はピンキー達と討伐の準備に移ってくれ。この音と連動して、スムーズかつ安全に攻撃できる方法を探ろう」
「はっ!」
二人は別室に待機しているピンキーとのミーティングに入った。
緊急に備えて数日間待機しているメンバーは、疲労と気だるさを隠さなかった。
「・・ごめん都筑さん、もう一回説明してくれへん?ダンスの・・・その・・笑い声がサイレン?そんでその間に攻撃?よく分からんかった」
「まあ、細かいことはいいんだ。要はあの怪物達の活動を弱体化させる音が見つかったんだ。あの溶解液を吐き出しているうちは誰も近付かせる訳にはいかないから、これから更に実験して精度を探る。お前達はいつでも出動できる体制をとっておいてくれ」
「そういえば私らのマスコミ発表ってどうなったの?討伐の様子は中継しないん?」
「いや・・その辺の事は色々な事情があって流れた。中継も勿論無い」
「ええ〜!私友達に言っちゃった!『防衛省関連のニュース見といてね』って」
「何を勝手してるんだ!遊びじゃないんだぞ!! いいか、今回の怪物はなんでも溶かす液体を吐くんだ。こちらの準備も万全を期すが、みんなも集中を切らさずに待機してくれ」
緊張感の足らないメンバーの元を後にした都築は再び解析室へ戻った。
『EZ DO DANCE』イントロの笑い声がよりクリアに加工され、ループ再生される編集作業が完了したところだった。
「都築さん、この音源を1時間ほど流し、怪物達の弱体化を促そうと思います。あまり長時間聴かせると慣れで効力が無くなる恐れもありますので」
「確かにそうですね、状況を見て攻撃判断に入りましょう。ピンキー達の準備も万全ですので」
「では音源を流します」
全員が固唾を飲んでモニターを見守った。余分な箇所が切り取られ、奇妙な笑い声のみがスピーカーを通して防衛省内にこだました。
やはり、怪物達の動きは徐々に弱まり、地面に横たわり始めた。数分も流すとどの個体も細かく痙攣し、身を捩りながら苦しんでいる。
解析員の松野はグッとガッツポーズを作り一同に振り向いた。
「皆さん、現在6分。この程度でこの反応です。1時間後にはもしかすると、この音のみで駆逐できてしまうかもしれません。ピンキーの出番は無くなるかもしれませんね」
確かにそう思わせるほどに顕著な反応が見られた。
「念には念を入れて、直接攻撃も加え、確実に駆逐しましょう。メンバーには出撃準備を促します。この様子だと数十分後には・・」
「はい、20分後にはもう相当疲弊しているはずです。その辺りのタイミングに出撃してもらって大丈夫かと」
「承知しました!では吉崎さん、自分は現場へ」
「ああ、頼んだぞ」
外に出ると笑い声はより大きく鼓膜に迫ってきた。これを延々のループで聴かされれば、怪物でなくとも頭がどうにかなるだろう。メンバーを伴い、まずは南側のポイントに近付いた。ピンキー全員で一体ずつ、確実に仕留めていく作戦だ。溶け落ちた防護壁の間からそっと近づき、様子を伺った。怪物との距離10メートルほどのところで目視確認すると、横たわった怪物は痙攣も見られず、ピクリとも動いていない。都築は腕時計を確認すると、計画であった20分を回ったところだった。
「よし!攻撃準備だ!!」
都築はその場から身を引き、50メートルほど距離をとった。メンバーは三方向に散らばり、攻撃の合図を待っている。もう一度目視で怪物の様子を確認し、都築は右手を高く掲げた。その合図でメンバーが怪物と一気に距離を詰め、攻撃体制に入った。その時、都築のイヤモニに狼狽した吉崎の声が入った。
「中止!!攻撃中止!!異変確認!!都築!!ピンキーを止めろ!!!」
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。