『メガロポリス』に見るフランシス・フォード・コッポラ監督の強い信念をひも解く!映像哲学と社会に対する理想、過去作とのつながりも

コラム

『メガロポリス』に見るフランシス・フォード・コッポラ監督の強い信念をひも解く!映像哲学と社会に対する理想、過去作とのつながりも

混沌とした政治劇と主人公を支える愛を描く家族のドラマ

2018年に出版された自伝「フランシス・フォード・コッポラ、映画を語る ライブ・シネマ、そして映画の未来」(フィルムアート社刊)には、新作についての記述がある。『メガロポリス』とは異なるタイトルが掲げられているのだが、それは“家族”についての映画になると宣言している。振り返れば、『ゴッドファーザー』、『アウトサイダー』(83)、『ランブルフィッシュ』、『ペギー・スーの結婚』(86)、『タッカー』、『ニューヨーク・ストーリー』など、コッポラは映画のなかで家族を描いてきたことを指摘できる。

メガロポリス計画の後ろ盾をする大富豪の叔父ハミルトン・クラッスス3世(『メガロポリス』)
メガロポリス計画の後ろ盾をする大富豪の叔父ハミルトン・クラッスス3世(『メガロポリス』)[c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』もまた、家族を描いた映画であり、野心や羨望、そして愛を巡る重厚なストーリーが展開される。主な人物はカエサルのほか、彼の新都市“メガロポリス”開発の後ろ盾をする大富豪の叔父ハミルトン・クラッスス3世(ジョン・ヴォイト)、メガロポリス計画に対抗してカジノ建設を推進する新市長のフランクリン・キケロ(ジャンカルロ・エスポジート)、キケロの娘で敵対関係にあるカエサルと惹かれ合っていくジュリア(ナタリー・エマニュエル)、カエサルの恋人で金融ジャーナリストのワオ・プラチナム(オーブリー・プラザ)、クラッスス3世の孫クローディオ・プルケル(シャイア・ラブーフ)といった一癖も二癖もあるキャラクターたち。

カジノ建設を推進する新市長のフランクリン・キケロ(『メガロポリス』)
カジノ建設を推進する新市長のフランクリン・キケロ(『メガロポリス』)[c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

立場を越えてカエサルに共感し、父との仲を取り持とうとするジュリアに対し、野心的なワオはクラッスス3世と結婚し、さらに後継者としての自身の立場を脅かすカエサルを危険視するクローディオとも結託する。誰もが幸せに暮らせる理想社会を追い求めるカエサルだが、その道程には様々な障壁が立ちはだかり、時には失意に陥ることも。混沌とした政治劇と主人公を支える愛のドラマ、コッポラのこれまでの作品にも通じる家族の物語が本作にも息づいている。

キケロの娘で敵対関係にあるカエサルと惹かれ合っていくジュリア(『メガロポリス』)
キケロの娘で敵対関係にあるカエサルと惹かれ合っていくジュリア(『メガロポリス』)[c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

それだけではない、本作にはコッポラの息子ロマン・コッポラ、妹タリア・シャイア、甥ジェイソン・シュワルツマンが参加し、ローレンス・フィッシュバーンやD・B・スウィーニーなど、過去の監督作に出演経験のある俳優が顔をそろえ、作品そのものは亡き妻エレノアに捧げられている。紛れもない“家族”の映画なのだ。

カエサルの運転手であり、物語の語り部でもあるフンディ・ロマイーネ(『メガロポリス』)
カエサルの運転手であり、物語の語り部でもあるフンディ・ロマイーネ(『メガロポリス』)[c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

“世界は変えられる”という泥臭いまでの理想が結実した『メガロポリス』

世界興収およそ1,400万ドルという結果に対して、『メガロポリス』は第45回ゴールデンラズベリー賞で最低監督賞を受賞。コッポラは自身のインスタグラムに「芸術がまるでプロレスのように点数化されている」、「リスクを恐れるあまり、50年後には誰も覚えていないような映画ばかり製作されている」と憤怒のコメントを寄せている。筆者はコッポラのコメントを支持する一人だ。

画像はFrancis Ford Coppola(@francisfordcoppola)公式Instagramのスクリーンショット
画像はFrancis Ford Coppola(@francisfordcoppola)公式Instagramのスクリーンショット

映画を作りたいという情熱がほとばしる今作は、金儲けが目的で製作されたものではない。前述したコッポラのワイナリー経営において、彼は「いまよりもよい地球環境を後世に残したい」(エノテカオンラインより抜粋)という想いから、再生可能エネルギーを使用し、灌漑にもリユースやリサイクルされた水を用いながら環境に配慮したワイン造りを行ってきたという経緯がある。つまり、『メガロポリス』におけるカエサルの都市開発推進の精神と符号するのだ。


豪華絢爛な映像に圧倒される(『メガロポリス』)
豪華絢爛な映像に圧倒される(『メガロポリス』)[c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

“世界は変えられる”という泥臭いまでの理想。そういったコッポラの精神が『メガロポリス』にはみなぎっているというわけなのである。

文/松崎健夫

世界の巨匠が人生をかけた一大叙事詩『メガロポリス』特集【PR】

関連作品