『メガロポリス』に見るフランシス・フォード・コッポラ監督の強い信念をひも解く!映像哲学と社会に対する理想、過去作とのつながりも
コッポラの映画的教養と“映像の監督”としてのビジョン
『メガロポリス』という作品は、コッポラのやりたいことが明確だという点に尽きる。例えば、劇中の陰謀や謀殺は、『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』だけでなく、『カンバセーション...盗聴...』(74)でも描かれてきたモチーフ。また、『ベン・ハー』(59)のような馬が引く戦車競争の再現や、『メトロポリス』(27)や『来るべき世界』(36)に影響された近未来のビジュアル、あるいは『真夜中のカーボーイ』(69)で共演したダスティン・ホフマンとジョン・ヴォイトのキャスティングには、コッポラの映画的教養が投影されている。
さらに、今作の高速で流れてゆく雲の映像や、ドラムを基調とした実験的な劇伴は、『ランブルフィッシュ』(83)に近似していたりもする。意外に思えるかもしれないが、コッポラは“映像の監督”なのである。観客に対して物語を伝えること以上に、脳内にあるイメージを撮影現場でどのように再構築していくのかが、彼にとって常に課題なのだ。
『地獄の黙示録』で学び、『ワン・フロム・ザ・ハート』で構築された制作スタイル
もう一つ重要なのは、“映像”というよりも“絵”の監督だという点。フレーム内に構築される「1枚の絵」=「フィルムのひとコマ」に対する明確なビジョンへのこだわりがあるのだ。そんな彼のビジョンを的確に映像化してくれた人物が、「絵筆を使うようにフィルムで撮影する」ことで知られる撮影監督、ヴィットリオ・ストラーロ。本作でこそタッグを組んでいないが、コッポラとは『タッカー』(88)や『ニューヨーク・ストーリー』(89)の一編で組んだことで知られる。2人が初めて組んだ『地獄の黙示録』での撮影は、伝説的なエピソードに事欠かない。
ベトナム戦争の狂気を描いた作品ながら、製作現場自体が戦場だったことは、妻であるエレノア・コッポラが著した「ノーツ-コッポラの黙示録」(マガジンハウス刊)や、彼女が共同監督したドキュメンタリー映画『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』(91)に詳しい。現場でのトラブルと映像へのこだわりによって、当初17週間の予定だった撮影は61週にまで延び、製作費も大幅に膨れ上がったが、驚異的な映像に対してストラーロは第52回アカデミー賞で撮影賞に輝いている。
コッポラは次作『ワン・フロム・ザ・ハート』(82)でもストラーロと組んでいるが、この映画の撮影体制に対してコッポラは「『地獄の黙示録』を撮っていた当時の私自身に対する戒め」と述懐。台風によってセットが破壊されるなど、天候に左右された撮影現場の反省からか、ラスベガスを再現した巨大セットを建設することで、すべてのショットをスタジオ内で撮影している。コッポラは「ラスベガスの街を人工的な“おとぎ話”に出てきそうな都と捉えた」(『ワン・フロム・ザ・ハート』公式劇場パンフレットより抜粋)とも述懐しているが、奇しくも『メガロポリス』の原題には「A FABLE=寓話」と記されており、『メガロポリス』は『ワン・フロム・ザ・ハート』と同様の演出哲学によって製作されていることも窺わせるのである。