天使の街に舞い降りた悪魔のシリアルキラー…『MaXXXine マキシーン』にも登場する“ナイト・ストーカー”とは?
『X エックス』(22)、『Pearl パール』(22)から続くタイ・ウエスト監督×主演ミア・ゴスによるホラーシリーズ三部作の完結編『MaXXXine マキシーン』が公開中だ。『X エックス』では1970年代、その前日譚『Pearl パール』では1910年代…と異なる時代を描いてきたが、今作の舞台となっているのが1980年代のハリウッド。この華やかな舞台でスターを夢見るマキシーンの活躍が描かれるなか、物語にダークなエッセンスをもたらしている悪名高き連続殺人鬼“ナイト・ストーカー”をご存知だろうか?
スターを夢見るマキシーンの身に何者かの魔の手が…
テキサスの農場での凄惨な殺人事件から6年。唯一事件を生き延びたマキシーン・ミンクス(ミア・ゴス)はポルノで生計を立てるなか、新作ホラー映画『ピューリタンII』の主演女優のオーディションに受かり、本物のスターになるためのチャンスを手にする。
順調にスターダムを駆け上がるかと思いきや、周囲の女優仲間たちが次々と殺される怪事件が発生。連日連夜、ニュースを賑わせ、ロサンゼルス中を震撼させる連続殺人鬼“ナイト・ストーカー”と思しき何者かの影が、しだいにマキシーンの身にも迫り…。
“ナイト・ストーカー”の異名を持つリチャード・ラミレスとは?
「ブラック・ダリア事件」で知られる女優エリザベス・ショートの名前が、マキシーンと女優仲間であるタビー(ホールジー)の会話に登場するなど、ハリウッドやロサンゼルスで起きた実在の事件を交えながら、マキシーンの行く手を阻む何者かによる恐怖がスリリングに描かれる本作。そのなかでも劇中のニュースや警察の会話など繰り返し名前が語られるのがナイト・ストーカーだ。
夜間に民家に忍び込んでは残忍な犯行を繰り返したナイト・ストーカーことリチャード・ラミレスは、1984年6月28日から1985年8月31日に逮捕されるまで、ロサンゼルス郊外を中心に、無差別に13人を殺害した連続殺人鬼。1989年に死刑判決を受けると、2013年に死刑執行を待たずB型リンパ腫によって獄中で亡くなり、53年の生涯を閉じた。
端正なルックスも人を引きつけ、逮捕後にはグルーピーと獄中結婚も果たすなど、チャールズ・マンソンのようなカルト的な人気を誇るラミレス。その生い立ちは壮絶で、1960年2月29日にテキサスのエル・パソで5人兄弟の末っ子として生まれ暴力的な父が支配する家庭に育つと、やがてグリーンベレー隊員としてベトナム戦争に従軍した凶暴で屈強な従兄弟ミゲルを尊敬するようになる。
12歳の時には戦地で暴虐の限りを尽くしていたというミゲルからベトナム人の女性を殺した写真を見せられ、さらには目の前でミゲルが妻を射殺する現場に居合わせ、その光景に興奮を覚えるなど、子ども時代から反社会性が出現。その後、就職した地元のモーテルでは勤務中に客室に押し入り、女性に暴力を振るうといった犯罪行為を繰り返してきた。
犯行現場に悪魔崇拝のマークを残す…ラミレスの非道な手口とは?
そんなラミレスは大金を掴むために、チャンスが転がる夢の街ロサンゼルスへと移り住むが、ドラッグにハマってしまいホームレス状態に。そして金品を物色するため、記録的酷暑となった1984年、夜も窓を開けている家へと忍び込んでいく。
約1年間で13人というハイペースで殺しを繰り返したラミレス。偶然にも“マキシーン”という名前の被害者もいたその犯罪の大きな共通点が、男性は即座に殺害し、女性には性的暴行を加えたということ。また遺体のなかには首の皮一枚でつながっているものや目をくり抜かれたものなど、残虐極まりない犯行もあったそうだ。
さらに被害者の太腿に口紅で逆五芒星のマークを残すなど、ラミレスが悪魔崇拝にも傾倒していたことも特徴的で、カルト的人気を博す要因の一つ。劇中の遺体にもナイフで逆五芒星のマークが切り刻まれているように、『MaXXXine マキシーン』ではラミレスの犯罪をインスパイア。ナイト・ストーカーによる犯罪か?模倣犯によるものか?というミステリーに加え、サタニック・パニックに揺れる1980年代のアメリカの空気感も作品に満ちている。