『アスファルト・シティ』監督が語る、アメリカ医療制度の過酷な実情「救急隊員はニューヨークの守護天使だ」
アカデミー賞主演男優賞に2度輝いた名優ショーン・ペンと、『レディ・プレイヤー1』(18)のタイ・シェリダンが、ニューヨークの危険地帯を縦横無尽に駆け回る救急救命隊員を演じた『アスファルト・シティ』(6月27日公開)。このたび本作から、メガホンをとったジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督が作品に込めた熱い想いを明かすコメントを独占入手した。
本作の舞台はニューヨークのハーレム。大学の医学部入学を目指すクロス(シェリダン)は勉学に励みながら、新人救急救命隊員として働き始める。ベテラン隊員のラット(ペン)とバディを組み、アドレナリン全開で救急車に乗り込み、実地で厳しい指導を受ける一方、多種多様な犯罪や薬物中毒、移民やホームレスなどの問題に直面し、自分の無力さに打ちのめされていく。そんななか、自宅で早産した女性の要請に応えるクロスとラットだったが、それが2人の人生を大きく狂わせていくことに。
『ジョニー・マッド・ドッグ』(08)や『暁に祈れ』(17)など、バイオレンスをテーマに社会と人間のダークサイドへ真正面から斬り込む作風で高い評価を得てきたフランス出身のソヴェール監督。シャノン・パークが執筆した原作を読み、「ニューヨークのディープな一面を描くのにうってつけだと感じた」と振り返るソヴァール監督は、リアルなニューヨークを描くため、実際にニューヨークで生活したという。
「原作の“敵”はクラック・コカインでしたが、映画では崩壊した医療制度。医療はとても高額で、お金がなければ治療を受けられない状況が見るに耐えません。リサーチしていくなかで、低所得の人々はなかなか病院に行けず、救急車を呼ぶ最後の最後まで耐えている。アメリカの医療制度が社会的暴力のひとつであることを追及しました」と、医療費が無料のヨーロッパとの大きな違いに着目。
さらにリサーチのため、モデルとなったワイコフツ病院で2年ものあいだ夜7時から朝7時まで救急車に同乗。「彼らの生活のリズムに惹かれました。アドレナリンがほとばしったかと思えば、いつ呼び出しがかかるかわからない待機時間に入る。時間の感覚が失われ、コンフォートゾーンから抜け出し、曜日感覚も無くなってしまう。毎夜の仕事は危険かつストレスフル。なにが起こるかわからない救急隊員の慌ただしい生活のリズムを捉えたかった」と、その経験が作中の緊迫感に反映されていることを明かした。
そして「救急隊員は、毎日命懸けで他者を救う、ニューヨークの守護天使だ。彼らの勇敢さ、献身、そして仕事への情熱に敬意を表そうと決めました」と強い畏敬の念を示すソヴェール監督。「映画が完成して、撮影の相談に乗ってくれた救急隊員らに『日常が偽りなく、とてもリアルに描かれている』と言ってもらえたのがこの上ない喜びでした」と振り返るように、本物の救急隊員たちも太鼓判をおす過酷な救急医療現場のリアルを、是非とも劇場のスクリーンで目撃してほしい。
文/久保田 和馬