アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第39回 実験

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第39回 実験

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第39回は怪物の弱点を探るべく解析室の松野が登場!

ピンキー☆キャッチ 第39回 実験

翌日、都筑と吉崎の姿は科学解析室にあった。主に超音波解析を担当する松野が、胡麻塩坊主頭を掻きながら説明してくれた。

「昨日お話を頂いてからの解析になったので、まあざっくりとしたものになりますが、モニターをご覧下さい。例の怪物が噴いた溶解液で防護壁が溶ける様子なのですが・・」

壁が轟音を立てて崩れ落ちたシーンで松野はビデオを一時停止した。

「ここです!壁が崩れ落ちる時に怪物の身体が小さくビクっと反応しましたよね。ではもう一度・・崩れる瞬間、おそらく目であろう部分は別の方向を向いています。しかしこの反応があるという事は、聴覚が備わっているとみて間違い無いかと」
「なるほど・・。奴らの周囲はバリアで囲われてはいるものの、耳は効いていると。それでは松野さん、都築が提案していた・・」
「ええ、超音波や特定の音での攻撃は有効かもしれません」
「吉崎さん、早速試してみましょう。あいつらが溶解液を吐いているうちはピンキーも出動させられませんので」
「分かった。松野さん、作業班を結成しますので各種機器の設置の指示をお願いいたします!」

陸自で班を割り当て、3時間後には大型の超音波発生装置と巨大なスピーカーを各所に設置出来た。
解析室にモニターと音のサンプルを取り揃え、実験の準備は整った。

「では松野さん、まずは超音波を」
「ええ、では高域から低域まで試してみましょう」

黄色いダイヤルをゆっくりと回しながら、みんなでモニターを凝視した。画面越しではあるものの、ある一定の周波数になると都筑らは側頭部にジリジリと不快感を覚え、こめかみを押さえた。怪物達は何も変わらず防護壁に抵抗し、溶解液を吐き続けている。7〜8分を過ぎただろうか、ため息と共に松野はスイッチを切った。

「超音波では反応が無いようです。動物なんかですと影響が顕著なんですが、もしかすると可聴域が我々人間に近いのかもしれませんね」

「と言いますと?」
「もっと具体的な、いわゆる音。人間でいうガラスを引っ掻いた時に感じる不快感のようなものを探ってみましょう」

松野が開いたノートパソコンには、あらゆる音や声のサンプル一覧が表示されていた。設置したスピーカーから一つずつ音を流し、地道に反応を伺うしか無さそうだ。松野は定石通り『黒板』というタイトルから選んだ。全員がゴクリと喉を鳴らし、緊張が走った。誰がどのように作ったサンプルなのか分からないが、黒板を鉄の爪ででも引っ掻いているような強烈な音が鳴り響いた。しかし怪物達に反応は無く、逆に解析室に椅子を並べた人間達だけが、身悶えしながら苦しんだ。

「これは強烈だな・・画面を見る余裕も無かった・・」
「吉崎さん、僕はなんとか見ていましたが、反応無しです」
「こればかりは闇雲に試していくしか無さそうです。上から順にやっていきましょう」

『ガラスの割れる音』
『破裂音』
『金属の棒』
『サイレン各種』
『炭酸』
『チャイム』
『鳥の鳴き声各種』
『怒声』
『叫び声』
『犬』
『猫』
『イルカ』
『猛獣各種』
『ジェット機』
『着信音』
『目覚まし時計』
『シンバル』
『弦楽器各種』
『鍋が落ちる音』
『揚げ物』
『ブレーキ音』
『電子音各種』
『タイピング音』
『波音』











昼過ぎに始まった実験であったが、外はすっかり日が落ちていた。『オルゴール各種』で都築はカクンと船を漕ぎかけ、慌ててヨダレを拭いた。みんな同じですと言わんばかりに、大きく伸びをしてメガネを外した松野が口を開いた。

「音を一つ一つ探す方法ですとキリが無さそうですね。提案ですが音楽をランダムで流し、反応があればどの曲のどの箇所なのかを再確認する。その方が苦手な音を探るのにスムーズかも知れません」

松野の案を採用し、見落とし防止の為5人一組で3チームを作った。これよりノンジャンルで音楽を聴かせる。24時間ぶっ通し、8時間ずつの三交代制で、反応があるかを探る作戦に変更した。翌朝、都筑・吉崎・遠山に解析班の2名を加えた『チームB』で実験を引き継いだ。松野率いるチームAからの申し送りは『ビートルズ』『ボン・ジョヴィ』『エアロスミス』『セックス・ピストルズ』はあらかた聴かせたが反応なしとの事だった。眠気に耐えられなくなったのであろう、後半に趣向を変えてピストルズを流した辺りに苦労が偲ばれた。

「よし始めようか。実験とはいえ、音楽を聞きっぱなしという集中力が削がれる作業でもある。少しでもみんなが聴きやすいジャンルに絞ろうと思うのだが・・」

解析班の2名の男性は45歳・42歳と、都筑とほぼ同世代であった。58歳の吉崎と共通点を探ると「80年〜90年代のJ-POPが互いに譲歩した上の中間地点だった。若い遠山も「その辺りの曲はカラオケで歌いやすいので好きなんです」ということで落ち着いた。ここから8時間、吐液する怪物を観察しながら懐かしのJ-POPを聴き続けるという奇妙な時間を過ごさなければならない。しかしそんな杞憂は、ランダムで流れ出した一曲目のL⇔R『KNOCKIN' ON YOUR DOOR』で吹き飛んだ。解析班の一人である野木が「ヤバいね」と漏らしたのを都築は聞き逃さなかったが、自分も同じ気持ちであった。遠山はもとより、吉崎すら膝を指で打ちつつリズムを刻んでいる。

大黒摩季〜シャ乱Q〜REBECCA〜玉置浩二〜CHAGE & ASKA〜川本真琴〜小沢健二〜B'z〜中森明菜〜L'Arc〜en〜Ciel〜徳永英明〜サザンオールスターズ〜

奇跡のようなレパートリーに一同は聴き入った。これがドライブ中の車内だったらどれだけ楽しかった事だろうと、誰もが思い描いた。中村あゆみの『翼の折れたエンジェル』のサビでは遠山「Ohhh〜」とコーラスし始めたが、咎める者はいなかった。CDが飛ぶように売れた黄金期の楽曲はどれも素晴らしく、そして懐かしく聞き応えがあったが、今回の目的はあくまで怪物の変化だった。モニター内に特に変わった様子も無く6時間も過ぎると、それぞれ眠気や疲労感に襲われ始めた。都築は中座し廊下に出ると、冷水で目を洗った。窓の外を見ると怪物を照らすサーチライトか白く滲んで見えた。怪物を、ひいてはあの溶解液を何とか攻略しなくては、次のステップに進めない。防護壁での誤魔化しにも限界が来るだろう。急いで弱点を探らなければ・・・。凝り固まった腕を伸ばし体をグッと反らしていると、遠山がバタバタと忙しなく廊下を駆けてきた。

「都築さん!!変化が!!怪物達に変化が見られました!!!!」

(つづく)


文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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