間違いなく“史上最悪のパラドックス”だ…タイムリープ映画の常識を変える『リライト』の魅力を、映画ファンに伝えたい!

間違いなく“史上最悪のパラドックス”だ…タイムリープ映画の常識を変える『リライト』の魅力を、映画ファンに伝えたい!

夢の“師弟タッグ”で、緻密な時間のパズルを創りだす

本作でメガホンをとった松居大悟監督といえば、『私たちのハァハァ』(15)や『君が君で君だ』(18)など、王道から少し外れた個性的な青春映画の名手。『くれなずめ』(21)では旧友の葬儀に集まった青年たちの群像を、『ちょっと思い出しただけ』(22)では一組のカップルの数年間の軌跡を描くなど、本作のような“青春ノスタルジイ”はお手のもの。

数々の名作が生まれた尾道でオールロケ!
数々の名作が生まれた尾道でオールロケ![c]2025『リライト』製作委員会

一方、脚本を手掛けたのは劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠。これまで上田が手掛けた作品を振り返ってみれば、クーラーのリモコンをめぐるパラドックスをコミカルに描いた『サマータイムマシン・ブルース』(05)や、タイムテレビを通して2分後の未来とつながる『ドロステのはてで僕ら』(22)に、2分間のタイムループに巻き込まれる『リバー、流れないでよ』(23)。さらにテレビドラマでも「時をかけるな、恋人たち」があり、まさに“タイムリープものの大家”と呼ぶにふさわしい。

戯曲版の「サマータイムマシン・ブルース」がきっかけで創作活動を始め、「ヨーロッパ企画」で作家助手を務めた経験もある松居監督にとって、上田は“師匠”と呼べる存在。そんな師弟の初タッグは、師匠である上田が「松居くんとやるならこの作品がいい」と原作小説を松居監督に教えたことから実現。とはいえ提案した上田は、あまりに複雑な原作を映画用に脚色する作業にかなり苦戦したと明かしているようだが。

久々の再会を果たしたクラスメイトたちの反応にも違和感が?
久々の再会を果たしたクラスメイトたちの反応にも違和感が?[c]2025『リライト』製作委員会

「原作の“怖み”はちゃんと残しつつ、感傷的な感じと希望、両方のバランスをとりつつ、“青春の金字塔”になりうるぐらいの名作になるように志向を変えた」と振り返る上田。そんな師匠渾身の脚本を演出するとなれば、松居監督の気合いも覚悟も並々ならぬものとなったことだろう。緻密でなければ成立し得ないストーリーのなかで、登場人物たちの感情の流れや会話のリズム、詳しくは書けないが“反復”するシーンのコミカルさや緊張感、どれも抜かりなく作品の味となって反映されており、松居監督が自身の「集大成」と豪語するのも頷けるほど。

とりわけ本作のユニークさは、上田が言及しているように「美雪が主人公でありながら、ある意味主人公じゃなくなるという不思議な構造」にある。序盤は異なる時代の高校生である美雪と保彦のひと夏の恋。それが10年後のシーンに移れば“予定外”によって導きだされたミステリーが急加速し、いつしか美雪だけでなくクラスメイトたちの青春群像へと様変わりしていく。大人になったクラスメイトたちが一堂に会し、“保彦との思い出”を語りあって夜の尾道を歩くシーンは、このなかに加わりたいと思えるほど、いや、すでに加わっている錯覚を味わってしまうほど青春映画のワンシーンとして魅力的だ。

青春模様に欠かせない、若手キャストのアンサンブルにも注目!

全員が集合した同窓会で、ついに真実が明らかに
全員が集合した同窓会で、ついに真実が明らかに[c]2025『リライト』製作委員会

“青春ノスタルジイの名手”と“タイムリープの大家”の絶妙なコラボレーションもさることながら、それを体現する若手キャスト陣のアンサンブルも必見。中盤まではミステリーに観客を導き、いつのまにか一歩引いたポジションからノスタルジイに満ちた世界へといざなってくれる美雪役の池田エライザ。映画初出演だからなのかちょっぴり堅い身のこなしを逆手にとって、ほかの登場人物から浮いた“未来人っぽさ”を体現する保彦役の阿達慶の独特の存在感。さらに橋本愛倉悠貴久保田紗友、山谷花純、前田旺志郎、森田想といった顔ぶれが揃い、彼ら全員が堂々と主人公のような表情を見せる。なかでも倉の活躍ぶりには熱烈な拍手を贈りたい。

そして先述した大林作品のオマージュはキャスティングにも。美雪たちの担任役を『時をかける少女』など大林作品の常連だった尾美としのりが演じ、美雪の母親役には『ふたり』(91)や『はるか、ノスタルジィ』(93)の石田ひかりが登場。大林作品のエッセンスを敬意と愛情をもってしっかりと引き継いだ本作を観ると、このまま松居監督と上田のタッグでまた新たな「尾道三部作」をやってほしいと思ってしまうことだろう。

切なく爽やかで、どこか懐かしい。夏にぴったりの青春映画に
切なく爽やかで、どこか懐かしい。夏にぴったりの青春映画に[c]2025『リライト』製作委員会

“タイムリープ作品”として、“ミステリ”として、そして青春映画として、一本の映画に込められるあらゆる要素を凝縮した本作は、何度観てもその都度記憶を“リライト”しながら多面的な楽しみかたができるエンタメ性に富んだ一本でもある。これからの季節にぴったりな爽快なひと時を味わいに、ぜひとも劇場に足を運んでほしい。


文/久保田 和馬

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