“ポップコーン女優”のレッテルを払拭したデミ・ムーア!『サブスタンス』でゴールデン・グローブ賞を掴むまでの苦節をプレイバック
演技以外で注目を集めてしまった『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』
となると、彼女がスピーチで語っていたことも納得がいく。「成功する映画、大金を稼ぐ映画には出られるかもしれないけれど、認められることはない、と。私はそれを信じ、受け入れてしまったのです」(ゴールデン・グローブ賞受賞スピーチより)。
その後の彼女。話題を呼んだのは『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(03)での初代エンジェル、マディソン役のために全身に施した、総額2000万円超の美容整形。芝居云々の話ではなかった(この時のムーアの芝居はすばらしかったと思うが)。俳優として長くブランクが空くことはないものの、映画賞に絡むような作品に恵まれるわけではなく、ただ淡々と仕事をこなしていた印象。
キャリアを終わりにする覚悟で掴んだ『サブスタンス』の栄光
その一方で、彼女は長年続けている多くの慈善活動に本腰を入れ、当時婚姻関係にあったアシュトン・カッチャーと共にNGO財団を設立するなど、社会貢献に努めていた。彼女にかけられた呪いのとおり、「名声と大金は得たが、アーティストとして認められることは一生ない」。そう思っていたとすれば、「もうこれでおしまいだ」と思った瞬間があったのは納得ではないだろうか。
受賞時62歳、受賞作『サブスタンス』(公開中)で演じたエリザベスは50歳。桃井かおりの「30過ぎたら同い年」なんて名言もあるように、人間ある一定の年齢を過ぎたら同じ「おじさん、おばさん」になるのだから、役よりひと回り歳を重ねていても誤差でしかない。しかも、撮影時はポップコーン女優の呪縛があった彼女。これでキャリアを終わりにしてもよい、という覚悟のもとで挑んだ初のアートハウス系であり、「若さ」という呪いに取り憑かれて、美しさに依存する女性エリザベスを、文字通り体当たりで演じている。
自身を重ね合わせずにはいられない。それだけに、スピーチで語ったことは本心だろう。「どん底にいた時、魔法のように大胆で勇敢で型破りでとてつもない脚本が私のところに舞い込んできたのです。それが『サブスタンス』。宇宙が私に『あなたはまだ終わっていない』と告げたのです」。
文/よしひろまさみち