濃密なドラマと衝撃的なスリル&恐怖…鬼才、異才がひしめくスペイン発ホラー映画の魅力を深堀りする!
スパニッシュ・ホラー/スリラーの現在地
バラエティに富んだスパニッシュ・ホラー/スリラーの傾向を簡潔にまとめるのは容易でないが、共通する特徴のひとつとして“よく練られたプロット”が挙げられるだろう。ドラマ性が高く、ひねりを利かせたストーリー展開が魅力のスパニッシュ・ホラーは、『パンズ・ラビリンス』『永遠のこどもたち』に代表されるように極めて“情感が豊か”であり、恐怖のみならず登場人物の悲哀や痛みがひしひしと伝わってくる。加えて、スタッフの技術レベルも総じて高く、緻密に設計された撮影、音楽、視覚効果などが監督のビジョンの具現化に大きく貢献している。
一昔前に比べるとスパニッシュ・ホラーの勢いはやや弱まり、ガルデル=ガステル・ウルティア監督作品『プラットフォーム』(19)、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の『ベネシアフレニア』(21)などが散発的に話題を呼ぶにとどまっている。その点、イグレシア総指揮、ジャウマ・バラゲロ監督の強力タッグ作『VENUS/ヴィーナス』の公開は嬉しいところだ。H・P・ラブクラフトの短編小説「魔女屋敷で見た夢」を原案とする本作は、ナイトクラブの若き女性ダンサーが犯罪組織のドラッグを盗んで逃亡するところから始まる。ところが郊外にぽつんとそびえ立つ古めかしいアパートメントに舞台が移ると、クライム・スリラーからホラーへと変容し、謎だらけの怪異がスクリーンに炸裂する。まずはトリッキーにしてシュールな娯楽性に満ちあふれた本作の仕掛け人、イグレシア&バラゲロのプロフィールをたどり、ぜひともスパニッシュ・ホラーの魅惑的な恐怖の迷宮に足を踏み入れてほしい。
文/高橋諭治
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