濃密なドラマと衝撃的なスリル&恐怖…鬼才、異才がひしめくスペイン発ホラー映画の魅力を深堀りする!
ギレルモ・デル・トロら、現在のハリウッド第一線で活躍する才能たちも!
次にピックアップした3人は、スペインで成功を収めたのちにハリウッドへ渡り、国際的な名声を確立した監督たちだ。もともとスペインの映像業界は同じ言語を共有するラテンアメリカ(アルゼンチン、メキシコなど)の映画人の活躍の場にもなっているが、メキシコ出身のギレルモ・デル・トロはその代表格だろう。彼がスペインで撮り上げた『デビルズ・バックボーン』(01)、『パンズ・ラビリンス』(06)は、共に同国の暗黒史であるスペイン内戦を背景にしたもの。とりわけ無垢な少女がたどる痛切な運命を紡ぎ上げた『パンズ・ラビリンス』は、イマジネーションあふれるダーク・ファンタジーであり、米アカデミー賞で撮影賞など3部門を受賞した。
そうしてスペインに足場を築いたデル・トロは、若い才能のサポートにも力を入れ、J・A・バヨナ、アンディ・ムスキエティがデル・トロ製作総指揮によるホラーで脚光を浴びた。とてつもない完成度の高さを誇る幽霊屋敷もの『永遠のこどもたち』(07)でゴヤ賞7部門を制したバヨナは、『インポッシブル』(12)、『怪物はささやく』(16)を経て、アドベンチャー超大作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(18)のメガホンを託されるまでにステップアップ。アルゼンチン出身のムスキエティは意外性に富んだ筋立ての心霊ホラー『MAMA』(13)を発表したのち、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)の監督に抜擢され、全世界興収7億ドル超えを達成する立役者となった。
才能の宝庫!2000年以降のスペインで注目される恐怖の作り手たち
2000年代以降のスペインには、ほかにも注目すべき監督たちが登場した。『10億分の1の男』(01)、『28週後...』(07)のフアン・カルロス・フレスナディージョ、『タイム・クライムス』(07)、『シンクロナイズドモンスター』(16)のナチョ・ビガロンド、『[リミット]』(10)、『レッド・ライト』(12)のロドリゴ・コルテス、『スペイン一家監禁事件』(10)、『インサイド』(16)のミゲル・アンヘル・ビバス、『マローボーン家の掟』(17)のセルヒオ・G・サンチェスらが、競い合うかのように英語作品を含むハイレベルなジャンル映画を手がけた。
また、スペインは卓越したスリラー&ミステリー映画の量産国でもある。『ロスト・ボディ』(12)、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(16)のオリオル・パウロ、『マーシュランド』(14)、『スモーク・アンド・ミラーズ 1000の顔を持つスパイ』(15)のアルベルト・ロドリゲス、『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』(16)、『理想郷』(22)のロドリゴ・ソロゴイェンらが並外れたスリルと恐怖を創出。まさに多士済々、才能の宝庫というべき国である。