濃密なドラマと衝撃的なスリル&恐怖…鬼才、異才がひしめくスペイン発ホラー映画の魅力を深堀りする!

コラム

濃密なドラマと衝撃的なスリル&恐怖…鬼才、異才がひしめくスペイン発ホラー映画の魅力を深堀りする!

21世紀のホラー・ジャンルはめざましい多様化が進み、ユニークな作品が次々と生み出されている。A24やNEONのようなアメリカの独立系映画会社がこのジャンルを積極的に手がけていることがその大きな要因だが、ヨーロッパ、アジア、中南米のローカル色が濃いホラーが異彩を放っていることも見逃せない。とりわけ近年は『LAMB/ラム』(21)、『イノセンツ』(21)、『胸騒ぎ』(22)、『アンデッド 愛しき者の不在』(24)といった北欧ホラーに勢いが感じられる。

このような特定の国・地域のホラーをまとめてチェックすると、いくつもの収穫を得ることができる。本記事ではスペインの鬼才たるアレックス・デ・ラ・イグレシア(製作)とジャウマ・バラゲロ(監督)がタッグを組んだ『VENUS/ヴィーナス』の公開を機に、一世を風靡したスペイン産のホラー、すなわちスパニッシュ・ホラーの歴代有力作やその特徴を改めて検証したい。

長いブランクを経て、90年代に花開いたスペインのジャンル映画

害虫駆除のために超音波によって死者が蘇る…という伝説的ゾンビ映画『悪魔の墓場』
害虫駆除のために超音波によって死者が蘇る…という伝説的ゾンビ映画『悪魔の墓場』[c]Everett Collection/AFLO

スペインにおける最初のホラー映画ブームは、1960年代後半から1970年代にかけて巻き起こった。当時のスペインでは“ファンタテラー”と呼ばれたB級のホラー、ファンタジーが量産され、ジェス・フランコやアマンド・デ・オッソリオ、怪優としても名高いポール・ナッシーといった監督たちが活躍。なかでもホルヘ・グロウ監督のゾンビもの『悪魔の墓場』(74)、トラウマ・ホラーとして名高いナルシソ・イバニェス・セラドール監督作品『ザ・チャイルド(1976)』(76)は広く知られている。

旅行で訪れた孤島にいたのは、大人を惨殺する子どもたちだった…というトラウマ級の恐怖が描かれる名作『ザ・チャイルド』
旅行で訪れた孤島にいたのは、大人を惨殺する子どもたちだった…というトラウマ級の恐怖が描かれる名作『ザ・チャイルド』[c]Everett Collection/AFLO

それから長いブランクを経て、1990年代半ばから2000年代にかけてスパニッシュ・ホラーの黄金期が到来した。くしくも『リング』(98)を嚆矢とするJホラー・ブームが世界中を席巻したこの時代、スペインでは新しい世代のフィルムメーカーが台頭し、多くの優れたジャンル映画を世に送り出した。なお、以下の文章には便宜上、非ホラーのスリラーやSF映画なども含まれることを了承していただきたい。

アメナーバル、イグレシア、バラゲロ…スパニッシュ・ホラー黄金期を担う3人の鬼才

『バニラ・スカイ』としてハリウッドリメイクもされた、ペネロペ・クルス主演の『オープン・ユア・アイズ』
『バニラ・スカイ』としてハリウッドリメイクもされた、ペネロペ・クルス主演の『オープン・ユア・アイズ』[c]Everett Collection/AFLO

黄金期の幕開けを告げたのは、アレハンドロ・アメナーバル、アレックス・デ・ラ・イグレシア、ジャウマ・バラゲロの3人だった。スナッフ・フィルム(本当の殺人を記録した映像)を題材にした長編デビュー作『テシス 次に私が殺される』(96)で、スペインのアカデミー賞たるゴヤ賞の脚本賞、新人監督賞をダブル受賞したアメナーバルは、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(58)のSF的翻案ともいえる『オープン・ユア・アイズ』(97)で東京国際映画祭グランプリを受賞。同作品はトム・クルーズ主演作『バニラ・スカイ』(01)としてリメイクされ、ハリウッドに招聘されたアメナーバルはゴシック調の幽霊屋敷ホラー『アザーズ』(01)でも絶賛を博した。


2024年に新邦題『アクション・ミュタンテ 4K』としてリバイバル公開もされたアレックス・デ・ラ・イグレシアのデビュー作『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』
2024年に新邦題『アクション・ミュタンテ 4K』としてリバイバル公開もされたアレックス・デ・ラ・イグレシアのデビュー作『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』[c]Everett Collection/AFLO

ペドロ・アルモドバル製作の『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』(93)で監督デビューを飾ったアレックス・デ・ラ・イグレシアは、司祭、ヘヴィメタ男、オカルト博士の珍トリオが悪魔に立ち向かう長編第2作『ビースト 獣の日』(95)を発表。ホラーとブラック・コメディの要素がハイテンションで混じり合ったこの怪作でその名を知らしめたイグレシアは、その後もアクロバティックなホラー、スリラー、メロドラマ、コメディを連打し、スペイン映画界を牽引していく。

『ネイムレス 無名恐怖』で鮮烈デビューを飾ったジャウマ・バラゲロの初期作品『ダークネス』
『ネイムレス 無名恐怖』で鮮烈デビューを飾ったジャウマ・バラゲロの初期作品『ダークネス』[c]Everett Collection/AFLO

ジャウマ・バラゲロの初期作品『ネイムレス 無名恐怖』(99)、『ダークネス』(02)も一度見たら忘れられない恐怖映画だった。暗躍するカルト教団の脅威をひたひたと忍び寄ってくる“影”のごとく表現した前者、とある郊外の一軒家で続発する怪奇現象の“闇”の深さが恐ろしい後者は、バラゲロの特異な作風を鮮烈に印象づけた。さらにゴースト・ホラー『機械じかけの小児病棟』(05)に続き、『REC レック』(07/共同監督パコ・プラサ)を放った。P.O.V.形式を採用したウイルス感染系のゾンビ映画である同作品は世界的な大ヒットを飛ばし、スパニッシュ・ホラーの人気をさらに高めた。

【写真を見る】POVモキュメンタリーホラーとして全世界で大ヒットを記録し、スパニッシュ・ホラーを代表する作品となった『REC/レック』
【写真を見る】POVモキュメンタリーホラーとして全世界で大ヒットを記録し、スパニッシュ・ホラーを代表する作品となった『REC/レック』[c]Everett Collection/AFLO
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