『ZOMBIO 死霊のしたたり』『フロム・ビヨンド』から『VENUS/ヴィーナス』へ!カルト作が生まれ続けるクトゥルフ神話×ホラーの系譜
カルトホラー『ZOMBIO 死霊のしたたり』もラヴクラフトが原作
ラヴクラフトに対する理解を深めるために、ここでその他の映画化作品や関連作品を挙げていこう。まずは『ZOMBIO 死霊のしたたり』(85)。現在ではゾンビ映画の古典として有名だが、これはラヴクラフトの「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」を映画化したもの。ブラックユーモアや古典ホラーの味付けがなされていて、宇宙要素は希薄だが、どんなに偉大な発明をしたところで人間の力は及ばず、絶望的であるという概念は、いかにもラヴクラフト的だ。本作は好評を受け、後にシリーズ化された。
ちなみに、同じくブラックな笑いに満ちたゾンビ映画のマスターピース、サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(81)は彼の原作ではないが、劇中に登場する「死者の書」は、ラヴクラフトの小説から取られている。ついでにラヴクラフト的なゾンビ映画を挙げれば、ルチオ・フルチ監督の『地獄の門』(80)もそのひとつ。舞台となる町の名はダンウィッチ。これはクトゥルフ神話に登場する町の名から取られている。
異形の怪物の出現で研究所が地獄絵図と化す『フロム・ビヨンド』
『ZOMBIO 死霊のしたたり』のスチュアート・ゴードン監督は他にも、ラヴクラフトの小説を映画化している。短編「彼方より」の映画化である『フロム・ビヨンド』(86)。こちらは人間の脳を刺激し、第六感を増幅しようとした科学者が時空を超越した別次元の門を開いてしまうストーリーだが、ゴードンはここでも原作を取っかかり程度にとどめ、エロ✕グロ✕ブラックユーモアという自身の色を出している。「インスマウスの影」を映画化したモンスタームービー『DAGON -ダゴン-』(01)も同様だ。
『ネクロノミカン』(93)はラヴクラフトの小説にしばしば登場する死者の書ネクロノミコンをモチーフにして、彼の短編3本を映画化したオムニバス。『ZOMBIO 死霊のしたたり』で製作総指揮を務めたブライアン・ユズナ、後に『ジェヴォーダンの獣』(01)を撮るクリストフ・ガンズに加え、日本から金子修介監督が参加したことも話題を呼んだ。
ニコケイの狂気が際立つ『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』
ここまで紹介した作品はラヴクラフトの読者には必ずしも評判はよくなかったが、映画としては見どころがあり、何より映画ファンに広くラヴクラフトの名を知らしめた功績は大きい。ならば、ここまでに映画で起きたラヴクラフト現象を総括し、クトゥルフ神話に落とし込んでみよう。そんなコンセプトの下で作られたのが『キャビン』(12)だ。『死霊のはらわた』のような若いキャンパーたちのサバイバルに始まったと思いきや、クトゥルフ神話的クリーチャーが次々と登場し、やはり最後には地獄の門が開かれる。
近年のラヴクラフト映画化作品には『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』(20)がある。これは「宇宙の彼方の色」の映画化で、これに先立つ2010年にドイツで一度映画化されている(邦題『宇宙の彼方より』)。隕石の墜落により、ある一家の日常が謎の「色」に浸食されていくという展開は、まさに異様の極み。これと格闘する主人公を演じるのがニコラス・ケイジなのだから、異様の度合いも想像できる!?
他にも、明らかにラヴクラフトの「狂気の山脈にて」(原題:At the Mountains of Madness)からとったと思われるジョン・カーペンターの『マウス・オブ・マッドネス』(94)をはじめ、『クローバーフィールド HAKAISHA』『ハプニング』(共に08)、『ヘレディタリー/継承』(18)、『ノック 終末の訪問者』(23)などなど、黙示録的と評される作品の多くは、ラヴクラフトからの影響が垣間見られる。TVシリーズ「ラブクラフトカントリー 恐怖の旅路」は、そのタイトルからして影響は明らか。いずれにしてもラヴクラフトが生み出した終末感は映画というジャンルにも深く根を下ろしている。その最新モデルである『VENUS/ヴィーナス』で、どれほど恐ろしい神話を叩きつけて来るのか?要注目だ!
文/相馬学