『ハルビン』が作品賞&大賞の栄冠!第61回百想芸術大賞を名スピーチとベストモーメントで振り返る
『ハルビン』ウ・ミンホ監督が作品賞&撮影監督のホン・ギョンピョが大賞の快挙!
OTTサービスにより世界でファンを量産し続けるドラマの好調とは逆に、12年ぶりにカンヌ国際映画祭での招待を逃すなど低調と言われる映画業界。だが1つ1つの作品に目を向ければ珠玉作揃いでもあり、それだけドラマ部門以上に混迷を極めるなかでの賞レースとなった。
作品賞に輝いたのは、1909年10月、中国ハルビンで起きた歴史的事件をヒョンビン主演で描くサスペンス『ハルビン』(7月4日公開)のウ・ミンホ監督。代理で受け取ったハイブメディアコープのキム・ウォングク代表は、ヒョンビンをはじめ、スタッフや関係者へ謝辞の最後に、コロナ禍以降に苦しい思いをしている劇場街への思いも明かした。モンゴルなど広大なロケーション撮影を行った『ハルビン』は、大きなスクリーンに向いている劇場用作品だ。キム代表は冷え込んだ劇場街を元気づけるように「パンデミック以降、CGVやメガボックス、ロッテといった劇場3社が大きな赤字を出して大変な思いをされていました。それでも『ハルビン』のような作品を上映するのに努力してくださいました。これからもこのような素晴らしい劇場用映画を作れるように努力します」と結んだ。
さらに、今年の映画部門大賞は『ハルビン』の撮影監督、ホン・ギョンピョに贈られた。本作は自然の雄大さを捉えたショットやまるで魂が宿ったかのような雪や雨の表現など、ホン・ギョンピョ監督の真骨頂と言うべきシーンに圧倒される作品できわめて納得の評価だが、大賞をスタッフが獲得するのは初めての快挙だった。
新人女優賞ノ・ユンソ、手話で喜びを語る
新人女優賞は『聴説(原題:청설)』のノ・ユンソ。SODA(Siblings of Deaf、聴覚障害のきょうだいがいる子)の役だった彼女は、自然な手話で挨拶。本作を通じて「心を伝えるには言語の形は関係なく、真心が重要だということを学びました」と真摯なスピーチで感動を呼んだ。
一昨年には、ドラマ「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」で放送部門新人女優賞を受賞したノ・ユンソ。今回の受賞は、演技者として着実にステップアップしていることの証明でもあるだろう。
『リボルバー』オ・スンウク監督とチョン・ドヨンが監督賞&主演女優賞!
監督賞と主演女優賞に輝いたのは、『リボルバー』(24)のオ・スンウク監督とチョン・ドヨン。前作『無頼漢 渇いた罪』(15)から9年というブランクを経て再びタッグを組んで作り上げた、女性の新基軸ノワールという本作のビハインドを思うと大変印象深い出来事だった。
オ・スンウク監督はチョン・ドヨンについて、「作品を作りながら、人間の不幸をどう表現するかについて学ばせてもらいました。そんな宿題を私に与えてくださったチョン・ドヨンさんに感謝を申し上げます」と、ただ本作の主演女優という役割のみならず、監督の作家性とノワールへの深い理解で今後の活動にも示唆を与えるメンターのようでもあったチョン・ドヨンへ、最大限の賛辞を口にした。
主演女優賞を獲得したチョン・ドヨンは「私も監督も仕事がなかった頃に出会って、4年かかりました。短くて楽しい作品をと言って始めたんですが、楽しい話ではないですよね(笑)。監督がチョン・ドヨンの新しい顔を発見しようと言ってくださいました」と、先ほどの監督スピーチに呼応するように感謝の言葉を述べた。
助演男優賞を受賞したユ・ジェミョン、イ・ソンギュンへ惜別の思い
映画部門で助演男優賞を獲得したのは、『幸せの国(原題:행복의 나라)』のユ・ジェミョン。本作は朴正煕大統領暗殺事件に巻き込まれ、死刑を待つ秘書官の大佐と彼の弁護士の奮闘を描くヒューマンドラマで、ユ・ジェミョンが演じた合同捜査部長チョン・サンドゥは、のちに韓国現代史上最悪の為政者となるチョン・ドゥファン元大統領をモチーフにしている。「この役を上手く演じたかった。でも撮影が近づくたび『上手くやれるだろうか』と不安になりました」と当時の思いを明かし、そんなときチュ・チャンミン監督が励ましてくれたと、感謝を述べた。続けて、秘書官を演じたイ・ソンギュンへの思いを口にした。本作は彼の遺作でもある。
「私たちは現場で、『幸せな現場だった』と冗談混じりに言っていました。兄弟のようだったイ・ソンギュン、チョ・ジョンソク、すべてのスタッフや俳優たちと一緒に酒を酌み交わし、笑って抱き合ったあの夜を忘れられません。先にこの世を去った友人を思いながら、一緒に映画を作った仲間たちを懐かしみつつ、今日は幸せな夜になりそうです」。
『戦と乱』パク・チャヌク監督、「国民を恐れるリーダーが必要なとき」
エンターテイメントとは、ただ華やかで楽しいだけではない。社会に対してどう良い影響を与えていくか考えることも役目である。今年の百想芸術大賞でもそんな一幕があった。映画部門脚本賞を受賞したシン・チョル作家とパク・チャヌク監督によるNetflix映画『戦と乱』(24)の受賞スピーチだ。
パク・チャヌク監督は「演出しない映画で脚本賞を受けるのが初めてだが、いままで一番気分が良いです」と、久々の百想のステージへの登場に笑顔を見せた。さらに、信念の映画監督ならではの発言もあった。「この映画は壬辰倭乱の後の混乱を背景にしています。 私は最近、韓国の政治状況を見ながら”戦乱”ということをよく考えました」を切り出し、ユン大統領退陣後の大統領選挙が本格化する社会に向けて、彼らしい強いメッセージを残した。
「勇敢で賢明な国民が、危機に陥った国を救うという共通点があるからです。いまは、偉大な国民のレベルにふさわしいリーダーを選ばなければならない時が近づいています。劇中でチャ・スンウォンさんが演じた“醜い宣祖”のような人ではなく、国民を恐れるような人を選ばなければなりません」。