アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第38回 通電確認
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第38回は吉崎が意外な手腕をみせる!
ピンキー☆キャッチ 第38回 通電確認
「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター⭐︎ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ〜んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!
都築は項垂れていた。マスコミ達への協力要請に失敗してから2日が経っていた。目の前には巨大な黒檀の机が鎮座し、レザーチェアに防衛大臣の中込が短い足を組んで座っている。普段は入室どころか、このフロアに足を踏み入れること自体初めてだった。
「吉崎君、ご説明願おうか」
こちらに向けられたパソコンの画面には『インパクトニュース』なるサイトが映し出されている。ニュースとは名ばかりの三流ゴシップ記事であった。真偽不明の芸能情報ばかりを取り上げるサイトだが、今朝方アップされた記事には数枚の写真と動画まで記載され、広く拡散されていた。
『愚策!!未成年女子を使った防衛ごっこ』
『問われる国の倫理!性器型モンスターを飼育!?』
事の真相などどこ吹く風で、適当に題されたセンセーショナルな太文字が踊っている。人目について閲覧数が上がれば内容などどうでもいいのだろう。それにしても「性器型モンスターを飼育!?」だけはめちゃくちゃにもほどがある。
「モニターや室内まで写した写真があるとなると、おそらくマスコミの中にこのゴシップ記者が紛れ込んでいたものかと思われます。私の確認不足です」
「いえ!吉崎さんではなく私のチェック体制に不備があり・・」
「いいんだそんなもんどちらでも!!ネットでは格好の的になっとるよ。これをどう収束させるつもりかね!?」
「しかし身分を偽っての侵入は犯罪であり、ましてやこの記事に正確性は一切皆無で・・」
「だからそんなのは問題じゃないんだ!!防衛省だけの話じゃないぞ!現政権叩きの大きなきっかけになってしまうんだよ、こうしたものは!!」
「はい、ともかくこのサイトを運営する会社に連絡を取ってみます。またすぐにご報告にあがります」
大臣室を後にすると二人は中庭に出た。元は整備の行き届いた休憩所も兼ねていたが、今は至る所に非常線が張られ、可動式の防衛壁がずらりと並んでいる。泡を吹き始めた怪物もこの壁で幾重にも覆い、それらを溶かさせて時間稼ぎをしているのだ。
「現政権は別の話として、この記事は看過できんな」
「吉崎さんこのサイト、会社の概要欄には住所も電話番号も記載がありません。ただ、別のページに『タレコミ専用番号』として携帯番号が載っています」
「なるほど・・。会社組織ではなくフリーの個人で運営しているのだろうな。分かった、私が電話をかけよう」
「え?今ですか!?担当の弁護士に任せないんですか?公式に抗議した方がいいのでは?」
「相手が会社組織の人間だったらそうだろう。しかしこんな行き当たりばったりで侵入をするような輩は理屈を並べるよりも効く手がある」
「しかし変に脅迫のようになってしまうと後々問題が・・」
「脅迫などせんよ、向こうには勝手に脅威に感じてもらう」
吉崎は仕事用の携帯を取り出すと非表示設定にもせずに番号を打ち込み、更にはスピーカーフォンに設定した。
「吉崎さん、スピーカーじゃこの辺の喧騒が丸聞こえじゃ・・」
「ああ聞かせるんだよ。・・・お、呼び出しが鳴ったぞ。都築、ここから私の言う事に話を合わせて声を出して返答してくれ」
「え、返答??」
6、7回呼び出し音が鳴ると、低い声の男が「はい」と電話口に出た。その瞬間吉崎が仰け反るくらいの大声で「通電っ!!」と叫んだ。「国有業務端末にて通電確認!」仰々しく言うと都築をチラと見て合図した。吉崎の作戦をうっすらと察した都築は「通電確認しました!カウントを開始!」と返すと、吉崎はニヤリと笑った。やはりそうだ、ただの確認の電話を大袈裟に硬質的にする事で、何かとてつもない国の機関に睨まれたと錯覚させる作戦だ。吉崎は携帯に向き直し続けた。
「こちらは国政機関ゼロハチゼロより。応答願う!!」
「・・・・え・・いや・・・はい、どちら様でしょうか?」
「繰り返す!!こちらは国政機関ゼロハチゼロ!!早急に個人名を!」
「あ・・ええと・・インパクトニュー・・」
「個人名をっ!!!」
「奥田っ!奥田と言います!!」
「個人名確認!!奥田姓!!」
「確認いたしました!姓は奥田!!」
ちょうどすぐ横を重機とジープが通ったので、吉崎は携帯を向けて重厚なタイヤ音を聞かせた。
「何?何これ?」
「現在迎える国防の妨害にっ!そちらが関わっている旨の報告を受けたし!!其の媒体より情報の全削除を要求する!!確認用モニター準備!!」
「確認用モニター!準備完了!!」
「え、あの、国防って・・・削除ってなんですか!?」
吉崎がいたずら少年のようにほくそ笑みながら都築に携帯を渡してきた。都築にとっても好きなタイプの遊びだ。
「今はぁ!!問答にかまける余力は皆無だぁ!!防衛省内っ!身分詐称不法侵入によりっ!取得したぁ!!データの削除ぉ!!及びぃ!!現在閲覧可能となっているネット媒体のぉ!!削除とぉう!!修正文の加筆をぉぉ早急に行うことをぉぉぉ!!強く要求するぅぅ!!」
「え・・しかし・・」
「これらは全てぇ!!防衛大臣であるぅ!!中込ぃ!!!忠三郎よりの命である事うぉ!!肝に銘じよぉ!!!」
「・・・・・」
「要求拒否ぃぃ!!!総員準備ぃぃぃぃぃぃ!!!」
「総員準備ぃぃぃぃぃ!!!!」
「分かりました!!今すぐ!!ええと・・・ちょっと待っててください」
「モニター確認んんんんっっ!!!!!」
「当該面のぉぉぉ削除をぉぉぉ!!ん確認んんんいたしましたぁぁぁぁ!!!!」
「ん削除確認んんんんんん〜!!!!修正文んのぉぉぉぉ加筆確認んんんっっ!!!」
「いやそんな早くは・・・ちょっと待ってて下さい・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ええと・・これでどうでしょうか・・・」
「読み上げぇぇぇぇい!!!」
「すみません!!ええと・・『先日アップされた記事は不確かな情報でしたため削除致しました。大変申し訳ございません』と・・・」
「ぅぅ加筆ヨォォォォシィィィ!!!」
「加筆確認!!総員休めぇぇぇぇぇぇ!!!!」
吉崎は再び携帯を受け取ると、
「今後気を付けろよ」
聞いたことのないドスの効いた低音でボソッと囁き、電話を切った。さぞかし相手は恐れおののいたであろう、しかし確かに内容では何も嘘をついていない。
「ここまでしといて可哀想だが警察に報告は入れよう、侵入は侵入だ」
オフィスに戻るべく踵を返すと、長いことここに居たのであろう、大臣の中込と秘書が目を大きく見開きながら立ち尽くしていた。
「これは大臣、大声で失礼を・・例の件、とりあえず消去には至りました」
「・・・あぁ・・・その・・・・熱心じゃないか、結構な・・その・・喉だね・・・・・」
「若い頃はだいぶシゴかれた世代でしたから。では・・・」
颯爽と歩き出す吉崎の後ろ姿を見て、都築はふと考えた。これまでの怪人も今回の怪物も、直接的な攻撃はバリアで防がれてしまっていた。『では声・・・もとい音は・・超音波の類のものであれば直接作用させられるかもしれない』と。
都築は中込に目礼すると、吉崎の背中を追った。
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。