A24映画『異端者の家』アーティスト・俳優の石野理子も翻弄された、ミスター・リードの巧みな話術「思い込みを覆そうとする底力はえげつない」

インタビュー

A24映画『異端者の家』アーティスト・俳優の石野理子も翻弄された、ミスター・リードの巧みな話術「思い込みを覆そうとする底力はえげつない」

「家そのものが彼の弱みを投影していたのではないかとも感じました」

リードを演じるのは、かつてロマンティックコメディで一世を風靡した名優ヒュー・グラント
リードを演じるのは、かつてロマンティックコメディで一世を風靡した名優ヒュー・グラント[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

劇中、リードが“反復”について議論するくだりがある。ホリーズの楽曲「安らぎの世界へ」とレディヘッドの「クリープ」はメロディが似ていたため訴訟問題に発展したが、今度はラナ・デル・レイの「ゲット・フリー」が「クリープ」に似ているとレディオヘッド側が訴訟を起こしたという経緯があった。そこでリードは、音楽の文化が“反復”してきたことと同様に、過去のいろんな宗教は互いの影響の繰り返し(反復)によって歴史がなされてきたのだと指摘。つまり、すべての宗教が正しいのは根本が一緒だから、とシスターたちを諭すのだ。

「とても印象的なシーンでしたね。オリジナルが希釈されて、元のメッセージが薄れていくと言っていて、すごくハッとさせられた。それこそ、リードの言っていることに納得させられて。たぶん彼女たちも『あっ、確かにそうだよな』と思ったはずなんです。うまく罠にはまった感じ。それこそAoooの活動のなかでも、曲作りの過程で踏襲というか、どこまでリファレンスの要素を入れていくかを話し合うことがあって。オリジナルに対する解釈の度合いは難しいと感じていました。自分の考えや思想すらも、誰かのなにかを引用した可能性があるなって思うと、真似するつもりじゃなかったのに盗作したと言われる可能性だってある。だから、リードの言い分にすごく納得した部分でした」

様々な仕掛けや罠が張り巡らされたリードの家
様々な仕掛けや罠が張り巡らされたリードの家[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

この映画の舞台となるのは基本的には家の中だけ。登場人物も基本的に3人。限定された空間と人数で緊張感を持続させる演出は見事だ。「限定された空間ということで言うと、家自体がリードそのものだという気がしていて。地下に行ったり、そのまた地下からさらに裏出口的な場所に行ったり…部屋やシチュエーションが変わるにつれ、彼が抱えている本当の孤独が見えてくる。家そのものが彼の弱みを投影していたのではないかとも感じました。宗教が主軸になっていたけど、彼が本当はなにを求めていたのかもわかるようになっている。2時間弱の上映時間をかけてリードというキャラクターを深掘りしていくような、多層的になっている点がこの作品の魅力だと思いました」

「バーンズのほうが、自分と近い感じがしました」

【写真を見る】石野が『異端者の家』を観て「私はシスター・バーンズに近い」と明かした理由とは?
【写真を見る】石野が『異端者の家』を観て「私はシスター・バーンズに近い」と明かした理由とは?[c] 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

シスターたちがリードから2つの扉からどちらかを選択するように強いられるように、これまでの人生の岐路において、石野はどのような基準で選択をしてきたのだろうか。「仕事においては、自分が見たい景色や経験したいことですね。将来的にそれが達成できるかどうかがポイントになる。突き詰めると、“心が躍るかどうか”です。自分が達成したいことというのは、頭で考えているのが理性の部分、心が躍るかというのは感情の部分だから、そのせめぎ合いみたいなことが結構起きる。最近はあまり気が向かないことも、『やってから後悔したほうがいいか』と思うようにしています。やらなかったという後悔のほうが怖いから」

映画館にもよく足を運び、ジャンルものから単館系の作品まで幅広く映画を観ている、生粋の映画好きである石野理子
映画館にもよく足を運び、ジャンルものから単館系の作品まで幅広く映画を観ている、生粋の映画好きである石野理子

シスターの2人と石野は年齢的にも近い。「どちらかと言うと、この状況に置かれたら私はソフィー・サッチャーが演じたバーンズのほう。『これだ』と思ったものに誠実に向き合って、あまりくじけないタイプで、ちょっと頭が硬くなりがち。バーンズのほうが、一つのことに懸命に向き合っていくタイプな気がして、自分と近い感じがしました」


取材・文/松崎健夫

■石野理子 プロフィール
2000年生まれ、広島県出身。2014年より、グループアイドル“アイドルネッサンス”として活動を開始。一方で俳優としても活動しており、映画『ファーストアルバム』(16)では主演を務めた。2018年にアイドルネッサンスが解散し、同年5月から2021年まではバンド“赤い公園”の新ボーカルとして活動。バンド解散後、2023年からはソロ活動を開始し、同年にそれぞれがソロとして活動するメンバーで構成されたバンド“Aooo”を結成し、現在も活動を続けている。フジテレビ系のドラマ「パリピ孔明」(23)にて、諸葛孔明の密偵であるメガネ女子役で出演、4月25日(金)公開の『パリピ孔明 THE MOVIE』でも同役で出演している。
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