自分をそのまま受け入れてくれる人に出会えたら…『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』『最強のふたり』など“2人”の絆に心揺さぶられる映画

自分をそのまま受け入れてくれる人に出会えたら…『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』『最強のふたり』など“2人”の絆に心揺さぶられる映画

ニューヨークの街角でのアルバム制作が生んだ奇跡『はじまりのうた』

失恋したシンガーソングライターと落ちこぼれの音楽プロデューサーが出会い、小さな奇跡を起こしていく『はじまりのうた』
失恋したシンガーソングライターと落ちこぼれの音楽プロデューサーが出会い、小さな奇跡を起こしていく『はじまりのうた』[c]Everett Collection/AFLO

音楽映画の名匠ジョン・カーニーが監督と脚本を手掛けた『はじまりのうた』(13)の主人公、人生のどん底にいる音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)と、作詞作曲をするイギリスの大学生グレタ(キーラ・ナイトレイ)も特別な2人組。2015年の日本公開時、口コミで大ヒットした作品で、6月13日(金)から限定リバイバル上映も決定している。

音楽プロデューサーのダンに見いだされたグレタは、あちこちで路上ライブを始めることに(『はじまりのうた』)
音楽プロデューサーのダンに見いだされたグレタは、あちこちで路上ライブを始めることに(『はじまりのうた』)[c]Everett Collection/AFLO

妻子と別居して1年、酒に溺れる生活を続け、自分が立ち上げたレーベル会社からクビを言い渡されたダンは、小さなライブバーでギターを弾き語るグレタと出会い、アルバムを作ろうと提案する。共に愛を失い、傷ついていた2人が、音楽という共通の言語で結び付き、音楽を通して再生する物語だ。路上ライブでのアルバム制作の様子もすてきだが、圧巻なのは2人がお互いのプレイリストを一緒に聞きながら夏の夜のニューヨークの街中を歩き続けるシーン。「音楽の魔法だ。平凡な風景が、音楽で美しく光り輝く真珠になる」というダンの言葉に顔を輝かせるグレタ。主演2人の化学反応も絶妙で、何度も観たくなるマジカルな魅力に満ちている。

深い絆で結ばれた正反対の2人の友情『最強のふたり』

身体が不自由な富豪と貧しい移民の若者の交流をユーモアも交えて映しだす『最強のふたり』
身体が不自由な富豪と貧しい移民の若者の交流をユーモアも交えて映しだす『最強のふたり』[c]Everett Collection/AFLO

事故による頸髄損傷で、首から下の身体を自由に動かせない車椅子の富豪と、ひょんなことから彼の介護人となった青年との実話を基にしたフランスの大ヒット映画『最強のふたり』(11)。パリに住む気難しい大富豪フィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、住み込みの新しい介護人に、スラム街出身の無遠慮な黒人青年ドリス(オマール・シー)を抜擢する。

障害や人種、年齢を問わず、平等に接し合う2人に心揺さぶられる(『最強のふたり』)
障害や人種、年齢を問わず、平等に接し合う2人に心揺さぶられる(『最強のふたり』)[c]Everett Collection/AFLO

フィリップが、介護職の経験ゼロのドリスを選んだ理由は、なんでもズケズケと言うドリスが自分を病人として「同情していない」態度が気に入ったから。人種も、生い立ちも、趣味も違い、会話していてもギャップがありすぎる2人は、心の底の部分で共鳴し、深い友情を育んでいく。一緒にギャラリーを訪れたシーンで「なぜ人は芸術に興味を持つのか。それが唯一の残せる足跡だからだ」というフィリップの言葉を聞いたドリスは、後日、自分も絵を描き始める。ドリスがフィリップを支えるだけでなく、ドリスもまたフィリップから影響を受け、そんなドリスを今度はフィリップが励ますという、互いに支え合う関係性がいい。

若き社長とシニアの部下の出会いを描く『マイ・インターン』

大企業のCEOを務める女性と、彼女の“40歳年上の部下”の男性の交流を描く『マイ・インターン』
大企業のCEOを務める女性と、彼女の“40歳年上の部下”の男性の交流を描く『マイ・インターン』[c]Everett Collection/AFLO

名優ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイ共演の『マイ・インターン』(15)は、ロマコメを得意とするナンシー・マイヤーズ監督が、歳が離れた男女の友情物語に挑戦したハートウォーミング・ストーリー。ファッション通販サイトの会社を立ち上げた社長ジュールズ(ハサウェイ)は、社会貢献の一環として、会社が採用した70歳のシニア・インターンのベン(デ・ニーロ)を自身の直属の部下にするはめになるのだが…。

初めはベンを信用せずにいたジュールスだが、ベンの行動によって少しずつ心を通わせていく(『マイ・インターン』)
初めはベンを信用せずにいたジュールスだが、ベンの行動によって少しずつ心を通わせていく(『マイ・インターン』)[c]Everett Collection/AFLO

当初は40歳も年上のベンをどう扱うべきか戸惑っていたジュールズが、しだいに彼の誠実な仕事ぶりに心を許し、信頼していく過程が丁寧に描かれていく。一方のベンも入社早々、ジュールズが仕事に打ち込む真摯な姿勢に感銘を受ける。お互いに対する尊敬の気持ちこそが、世代間ギャップを超える友情のベースとなっているところに、この物語の説得力がある。親とは不仲、夫との関係も不安定になるなど、常に気を張り詰めていたジュールズがベンに「正直、あなたがいると、なぜか落ち着く。だから、いてくれると助かる」と率直に打ち明けるシーンでは、自分の弱さをさらけ出せる相手がいることの尊さが伝わってくる。

お互い心を開き、夜な夜なクラブで飲み明かすジェヒとフンス(『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』)
お互い心を開き、夜な夜なクラブで飲み明かすジェヒとフンス(『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』)[c] 2024 PLUS M ENTERTAINMENT AND SHOWBOX CORP. ALL RIGHTS RESERVED.

同級生、仕事仲間、上司と部下など、いろいろなケースで出会った2人の友情や精神的なつながりを描いたこれらの作品。様々な感情や悩みを共有し、お互いの本当の気持ちをちゃんと理解したうえで、それぞれが自分らしく生きるためのあと押しをし合う彼らの“連帯の物語”は、いつだって、それを観る者のことも大いに勇気づけてくれる。

文/石塚圭子


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