刑務所劇団員たちが大乱闘!?『シンシン/SING SING』本編映像&制作秘話
ニューヨークに実在する“シンシン刑務所”の元収監者とオスカーノミニー俳優という異色のキャストアンサンブルが紡ぐ、感動の実話『シンシン/SING SING』(4月11日公開)。このたび、刑務所劇団員たちが大乱闘をしているシーンの本編映像が解禁された。
最重警備のセキュリティを誇るシンシン刑務所では、収監者更生プログラムの舞台演劇が行われている。本作は、それに取り組む収監者たちの間で育まれていく友情と再生を描く感動の物語。主要キャストの85%以上が実際にシンシン刑務所の元収監者であり、演劇プログラムの卒業生及び関係者たちで構成されるというユニークかつ挑戦的なプロジェクトとなった。本作は2024年3月、映画ファンに支持されるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)映画祭で、観客の投票により選ばれる最高賞「観客賞」を受賞。全米配給権は人気スタジオA24が獲得、その後次々と世界の映画祭や映画賞での受賞を果たし、遂には第97回アカデミー賞で3部門ノミネートを果たすという快挙を成し遂げた。
主演として参加するのは2024年の『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』に続き2度目のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた名優コールマン・ドミンゴ。さらに元収監者で、演劇プログラムの卒業生であるクラレンス・マクリンは本作で鮮烈な俳優デビューを果たし、世界各国の映画賞で助演男優賞や新人賞を獲得した。
収監者たちが刑務所内の更生プログラムである舞台演劇に参加することで自らの感情と向き合い、さらけだしていくコミュニティの重要性と、見る人の心をも大きく動かしていく芸術のパワーを描いた本作。その公演の運命を分ける、委員会による資金審査のためのリハーサル映像が到着した。
舞台袖でボランティアの指導者であるブレント(ポール・レイシー)に「新しい幕が買えるぞ。君らの演技で委員の顔をとろけさせろ!残忍になりきれ!」と励まされ、士気を高めたメンバーは、雄叫びをあげながら勢いよく飛びだすも、委員たちの堅い表情に怖気づいてしまう。またもブレントに煽られ、お互いの顔を伺い、戸惑いながらも大乱闘シーンのリハーサルを開始する。
本映像で語られるように、舞台上で演技を通して、残忍になることも剣を振り回すこともできる劇団員たち。映画で本人役を演じたクラレンス“ディヴァイン・アイ”マクリンは、RTAの劇団員たちが抑圧された刑務所のなかにも関わらず様々な感情をさらけだす姿に心惹かれ参加を決めたと明かしているが、彼が感じたものと同じ魅力が観る者の心を大きく揺さぶる。
「厳しい環境で従来ながらの演劇を努力して成立させ、大きな意味のある人間としての変化を経験しながら、風変わりなコメディという遊び心も楽しむ。これは世間に、より深い理解を与えるストーリーを語るための出発点だろうと感じました。語らないと固定観念に捕えられたままか、忘れられますが、鉄格子の向こうにいる人々のなかには才能にあふれる人もいるんです」と語るグレッグ・クウェダー監督も心を揺さぶられた1人だった。
さらに演技を武器として生き直した彼らは、自らの過去をも演じることができる。本作では85%以上のキャストが本人役として出演し、過去の自分を演じるために、とうの昔に割り切った思考回路に戻った。このことについてマクリンは、「これはチャンスだと思いました。昔の自分からいまの自分への変化を見せかった。かつての私の人生の一部を他の人たちに見てもらい、『あんな真似はしないでいいんだ』と分かってもらいたいと思ったのです」と、自分自身で手本を見せることが重要だと考えていたと言う。
本作の制作過程でユニークだったのはキャスティングだけでなく、報酬の面でも新たなアプローチがあった。それは、主演のドミンゴから製作アシスタントに至るまで、どのキャストもスタッフも、同じ日給レートや週給レートで支払いを受けること。クウェダー監督は、「この革新的な透明性は、これまでにない信頼感を誕生させました。私たちは浮き沈みをともに経験し、みんなで同じ目標を共有するのであって、ヒエラルキーはないと気づいたんです。最高のアイディアがチームの全員から寄せられ、耳にすることができる文化ができたんですよ」と自信をもって答える。
演劇を通して再生していく人たちだけでなく、映像には映らない多くの人からの愛と希望に満ちた本作をぜひスクリーンで堪能してほしい。
文/山崎伸子