阪元裕吾監督&久野遥子監督、TOHOシネマズ学生映画祭でエール!学生時代の映画作りは「かけがえのない時間」

阪元裕吾監督&久野遥子監督、TOHOシネマズ学生映画祭でエール!学生時代の映画作りは「かけがえのない時間」

審査員による講評が行われた
審査員による講評が行われた

結果発表の後には、映画監督の阪元裕吾、株式会社ロボットのプロデューサーである村上公一、CMプランナーの佐藤雄介、日本コカ・コーラ株式会社の森田慎一、アニメーション作家で映画監督の久野遥子、東宝株式会社の栢木琢也と柳澤俊介ら審査員による講評が行われた。

東宝株式会社の栢木琢也は、「観客を楽しませることを意識した作品」と評価
東宝株式会社の栢木琢也は、「観客を楽しませることを意識した作品」と評価

栢木は、「失敗してもいいから、若い才能をお持ちの方とこれまで観たことのない新しい作品を作っていきたいというプロジェクト」とGEMSTONEプロジェクトについて説明。GEMSTONE賞を贈った監督とは、これから一緒に作品を作っていくことになるからこそ「その人の人生を左右することになる。悩みながら、真剣に選んだ」と力を込めた。そのなかで同賞を受賞した『ジョセリン・ラン・デブ』は、「観客を楽しませることを意識した作品」だと評価。「GEMSTONE賞はいずれ、全国の映画館で100万人以上のお客さんに観てもらえる作品を一緒に作りたいと思う人に贈るもの。『観客を意識しているか』ということを大切に選んだ」といい、さらに「ストーリーがしっかりと構築されていた」と付け加えつつ、「『ジョセリン・ラン・デブ』を超えて、より多くのお客さんに届けられる作品を一緒に作っていけたら」と期待を寄せていた。

株式会社ロボットのプロデューサーである村上公一は、「好きなものがあることが、映画作りで一番大事なこと」と語る
株式会社ロボットのプロデューサーである村上公一は、「好きなものがあることが、映画作りで一番大事なこと」と語る

「すばらしい作品をたくさん観せていただき、すごく刺激を受けた」と明かした村上は、「ロボットという会社はエンタメ作品を中心に作っています。ROBOT賞を『超覚人〜LEGACY RIFT〜』に捧げた理由は、エンタメに振り切っていたなと感じたことが大きな理由」と吐露。「映画は集団で作るもので、決して一人の才能だけによるものではないです。監督もこれからいろいろなことを学び、いろいろな才能を使って、人を動かして作っていくことになると思う。彼のなかには、ものすごく自分の好きなものがあることを感じた。これが映画作りで一番大事なことだと思います。好きなことを周りのスタッフやキャストに伝えて、才能を引きだしていくというのが、僕らがいつもやっている映画の作り方」と映画作りの大切なヒントを口にしながら、「こういったことを続けていっていただけたら」とエールを送っていた。

CMプランナーの佐藤雄介は、学生時代の大切さについて語った
CMプランナーの佐藤雄介は、学生時代の大切さについて語った

「プロモーション部門」の総評を担った佐藤は、「気軽に観られること」がプロモーション映像のよさだと分析。「気軽に観たものに対して、『ヤバい、なにこの映像。超カッコいい』というギャップが作れるとおもしろいと思う。そういった意味では、グランプリの『ここじゃない』は一番変わったことをやろうとしていた。画のなかにギャップを作りながら、おもしろいことをやってやろうという気持ちが伝わった」と称えた。そして『映画という名の戦場ーあるいはそれに赴く戦士ー』については、ベタな映像から入りつつ「構成力や、飽きさせない工夫があった」とコメント。「プロモーション部門は、最初にテーマがあるというところがポイント。テーマが決まっている分、実験的な表現に全振りして作ってもらってもいいし、最後にテーマとなるポップコーンやコーラが出ていればOK。もっともっとおもしろいものを作って応募してもらえたら」と刺激的な作品の登場を楽しみにしていた。

日本コカ・コーラ株式会社の森田慎一も、貴重な時間を過ごしたと語った
日本コカ・コーラ株式会社の森田慎一も、貴重な時間を過ごしたと語った

また「ゼロからイチを生みだす力はすごいこと」と目にした若き才能に驚いていた森田は、「いまのマーケティングの考えは、映像や写真などの広告ではなくて、『体験なんだ』と言われています。皆さんの作品を観て、笑ったり、考えさせられたり、感情の動きもあった。映像も立派な体験だなと思いました。今後のマーケティングに活かしたい」と貴重な機会になったと話していた。

東宝株式会社の柳澤俊介は、『MABU』の講評を語った
東宝株式会社の柳澤俊介は、『MABU』の講評を語った

「世界中で愛していただけるアニメーション作品が増えている」と状況に触れた柳沢は、まだ見たことのない表現に挑めるのが「アニメーションのおもしろいところ」だとさらなる未来に言及。TOHO Animation賞を受賞した『MABU』は「完成度や技術もすばらしい。プラス、オリジナリティのある表現、演出が入っていた」と語りつつ、「いろいろなものを観て、いろいろな表現があるんだと吸収してもらえるともっといいものになると思います」「全作品、すばらしいものばかり。それぞれの道でアニメーションがより豊かになるよう頑張っていただけたら」とクリエイター陣にメッセージを届けていた。

学生時代だからこそできる表現について語った久野遥子監督
学生時代だからこそできる表現について語った久野遥子監督

『化け猫あんずちゃん』(24)などで知られる久野監督は、審査基準について「その人にしか持っていないもの、その人にしかないフェティッシュがあるものを評価したいと思った」と語った。

そのなかで「ショートアニメーション部門」の準グランプリ作品『腹鳴恐怖症』には「質感など、他の人と似ていないものを持っているなと思って選ばせていただいた」といい、グランプリ作品の『マミ子のウン子』も「すごくアッパーで笑ってしまった。食事のシーンは、見たことのないものだった。そういったフェチズムみたいなものを基準に選ばせていただきました」と目尻を下げた。続けて「私は学生のころに賞を取ってから、長編アニメーションを作るまでに10年以上かかってしまった。なかなか長編アニメーションを作る機会を得られず、チャンスをずっと探っていた」と自身の道のりを回顧。「そのなかで仕事をしていくと、丸くなっていくというか。学生のころほど濃厚なものが作れなくなる。学生の時が一番、(表現を)尖らせることも、濃くすることもできる。それはその時にしかない時間。『こんなのやっていて意味があるのかな』『周りに笑われちゃうな』というものほど大切にしてほしい」と体験を踏まえながら呼びかけていた。

【写真を見る】若き才能にエールを送った「べイビーわるきゅーれ」シリーズの阪元裕吾監督
【写真を見る】若き才能にエールを送った「べイビーわるきゅーれ」シリーズの阪元裕吾監督

「べイビーわるきゅーれ」シリーズなどで知られる阪元監督は、「ショートフィルム部門」について講評した。観客を喜ばせるためには「“ワンダーとシンパシー”。驚愕させるか、共感させるか」が大事だと持論を述べ、「台本、モチーフ、題材やストーリー、キャラクターなどいろいろな要素があると思いますが、『RESTART 御社を攻略せよ』は“ワンダーとシンパシー”をバランスよくまとめて描いていた」とグランプリ作品を賞賛。「特に“ワンダー”の部分では、SNS描写に最先端のものを感じた。すばらしいなと思った」と語り、「“共感”の部分では、1回あげて落とすということをするならば、もっと落とさないといけないとも思った」と改善点も話題にあげた。「僕のヒーローアカデミア」や「ハイキュー!!」といった漫画を例にあげつつ、「商業的にも作品的にも完成されている。そういうところを参考にしたら、共感を得られる主人公ができるのかなと思いました」とアドバイスした。

また準グランプリ作品『死んだ、ろか。』は、「技術面、演出面で突出して『このシーンがすごい、これは見たことがない』と感じることはそこまでなかったんですが、一番、他人ごとじゃないものを描いている感覚があった。作品を自分ごとのように描けている。学生らしさ、ほとばしるパッションにやられました」と告白した阪元監督。「もうちょっと演出に工夫をしないと、時系列がわかりづらかったりする。(このシーンは)『誰かが死んだあとなんやな』と強調するために(映像を)白黒にするなど、そういった模索をしたらもっと人を引き込める作品になるのかなと思いました」とより進化していけるはずだと提案。どちらの作品も「『この顔を見ろ』というショットがあったこと」も評価に繋がったと話した。


体験を踏まえたトークに、学生たちも聞き入っていた
体験を踏まえたトークに、学生たちも聞き入っていた

受賞を逃した作品にもそれぞれ厳しくも愛のある言葉を送っていた阪元監督だが、「こういった大きな場所で仲間たちと一緒に自分の作品を観られるというのは、かけがえのない時間」としみじみ。「僕自身、大学の友達といまだに一緒に映画を作っています。『べイビーわるきゅーれ』のスタッフは、映画美学校の友達同士。実写の集団制作では、そういった出会いが一番大事だと思います。隣にいる人を見合って、手を繋いで、その人を大事にしながら。時にはぶつかり合ったりすることがありつつも、映画は人と人との芸術なので、ぜひ隣に人がいる喜びを噛み締めて帰ってください」と心を込めると、学生たちからも拍手が上がっていた。

取材・文/成田おり枝

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