“雪”で表現される、抗いがたい格差社会。『ミッキー17』ではキャラクターの位置関係をどう選択した?
「前へ進むだけ」でも「上へのぼるだけ」でも不可能な下剋上
なかでもポン・ジュノ“らしさ”が表れているのは天候である。『殺人の追憶』(03)から『パラサイト 半地下の家族』に至るまで、ポン・ジュノ作品では登場人物の感情が常々“大雨”によって表現されてきた。
しかし今作では、雨は降らず、しんしんと雪が降りつづけている。その点は先述の『スノーピアサー』とよく似ている。ざっと降ってすぐに乾く大雨ではなく、静かに降って、降り終わってもしばらくその場に残り続ける雪は、じわじわと根深く染みついた格差の手強さを表しているかのようだ。
その『スノーピアサー』は、荒廃した近未来の世界を舞台に、格差社会の底辺にいる主人公が支配者への下剋上を目論む姿が描かれた作品だった。同じように格差社会を題材にしながらも、対照的な立場にいる者の転覆を望むのではなく寄生することを目的とした『パラサイト 半地下の家族』とは方向性が明確に異なっている。そういった点でも、今回の『ミッキー17』は『スノーピアサー』と近しい。
また、『スノーピアサー』では登場人物たちが生活する列車の車両の前後によって各々の格差が表現され、前へ前へと進んでいくことで敵に近付いていると示されていた。対して『パラサイト 半地下の家族』では、住んでいるエリアや土地や建物など居住空間の物理的上下が、劇中に登場する3つの家族の格差や関係性を見事に表していた。
しかし『ミッキー17』においては、ミッキーと権力者マーシャル&イルファのあいだの物理的な位置関係による差は明確化されず、劣悪な生活水準とブラックな労使関係だけをもって、両者の抗いがたい格差を見せつけていく。
この「前へ進むだけ」でも「上へのぼるだけ」でも不可能な下剋上を、ミッキーはどのように果たすのだろうか。ラストシーンの天候にも注目しながら、2人のミッキーの華麗なる逆襲を映画館で目撃あれ。
文/久保田 和馬