“雪”で表現される、抗いがたい格差社会。『ミッキー17』ではキャラクターの位置関係をどう選択した?

“雪”で表現される、抗いがたい格差社会。『ミッキー17』ではキャラクターの位置関係をどう選択した?

韓国映画史上初のカンヌ国際映画祭パルムドール、そして非英語作品として史上初めて第92回アカデミー賞作品賞に輝くなど、いくつもの歴史的快挙を成し遂げた『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノ監督。その最新作にして集大成ともいえる『ミッキー17』が公開中だ。本稿では、監督が表現し続ける美学、そして描き続けていた“格差”というテーマについて深堀りしていこう。

ポン・ジュノ監督が選んだのは、エンタメ性と自身の美学の両立

「トワイライト」シリーズや『TENET テネット』(20)、『THE BATMAN -ザ・バットマン-』(22)のロバート・パティンソンを主演に迎えた本作は、パティンソン演じる失敗続きの主人公ミッキーが、一発逆転をかけてとある“夢の仕事”に申し込むところから物語が始まる。よく読まずに契約書にサインしてしまったミッキー、しかし仕事の実態は、身勝手な権力者たちからの過酷すぎる業務命令に従い、死んでは生き返るを繰り返す地獄のような日々だった。

何度も搾取され続け、何度も死に、そのたび生き返り、17人目となった“ミッキー17”は、ある日の仕事の最中に生死の淵を彷徨うこととなる。命からがら帰還を果たすのだが、そこに待っていたのは手違いで生みだされた“ミッキー18”だった。2人のミッキーが存在することが知られたらどちらも消されてしまう。そんな窮地のなか、ミッキーは、権力者マーシャル(マーク・ラファロ)&イルファ(トニ・コレット)への逆襲を心に決めることとなる。

オスカー受賞後最初の作品は、『パラサイト』から10倍以上の制作費で挑むハリウッド大作!
オスカー受賞後最初の作品は、『パラサイト』から10倍以上の制作費で挑むハリウッド大作![c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

アカデミー賞に輝いた監督が次にどんな映画を発表するのかは、常に世界中の映画ファンが注目することの一つであろう。『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)のあとに『ナイトメア・アリー』(21)を手掛けたギレルモ・デル・トロのように、自身の美学をさらに追求していくのか。はたまた『ノマドランド』(20)のあとにマーベルの『エターナルズ』(21)を発表したクロエ・ジャオのように新境地へと挑むのか。ポン・ジュノ監督の場合は、その両方であった。

“二兎を追う者は一兎をも得ず”などと昔から言われているが、“二兎を追って二兎を得る”。それはまさしく天才にしかできない所業だ。ポン・ジュノ監督にとって、『ミッキー17』は本格的なハリウッドメジャー進出作。その注目度の高さは、これまでのどのオスカー監督とも比にならないだろう。

ロバート・パティンソン演じるミッキーの前に、もう一人のミッキーが?
ロバート・パティンソン演じるミッキーの前に、もう一人のミッキーが?[c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

言わずもがな、韓国とハリウッドの市場規模は大きく異なっており、『ミッキー17』の制作費は『パラサイト 半地下の家族』と比較すると実に10倍以上。過去にハリウッド資本を入れて手掛けた『スノーピアサー』(13)やNetflix映画『オクジャ/okja』(17)と比べても3倍近い制作費の差があり、映画が始まった瞬間からスクリーン全体に広がる作品世界の巨大さは一目瞭然。


それでも“格差”というテーマや、ミッキーという一人の人間の内面の弱さを浮き彫りにしながら(そこにもう1人のミッキーという多面的な部分を、あえて別の個体として登場させるアイデアの豊かさ)、ユーモアたっぷりの語り口に耳に残る音楽の使い方など、いつものポン・ジュノ作品そのもの。『ほえる犬は噛まない』(00)での長編デビューから四半世紀。ポン・ジュノが韓国映画界で築きあげてきた映画づくりの文法は、ハリウッドでもブレることはなく、映画界の頂点に輝いてもなお進化を続けていることが証明された。

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