鉄拳が、ある夫婦の半生をイラストで表現!『HERE 時を越えて』固定カメラで描く物語に「奇跡的に繋がっていると思うと涙が流れた」
「人生は思い通りにはなりません。でも、なんとかやって来れました」
今回、イラストを描くにあたって、複数回鑑賞したという鉄拳。2回目を観ての感想を聞くと「オープニングから号泣でした」と明かしてくれた。「物語の展開を知っているので、オープニングから人々の出会いや別れ、再会といった出来事が走馬灯のように蘇ってきて涙が止まらなくなりました」。さりげないエピソードが、実は緻密に繋がっていることにも気づくことができたという。「古代の男性が女性に愛を誓う時、貝殻の首飾りをプレゼントしていました。彼女が妊娠したり、亡くなる時もその首飾りをしていましたが、それが時代を経て裏庭から掘り出されるシーンを見て『繋がっていたんだ!』と感動しました」と興奮気味語る鉄拳は、より理解が深まるリピート鑑賞もオススメだと説明する。
イラストを交えたトークのほか、YouTubeの「鉄拳パラパラ漫画チャンネル」でも人気の鉄拳。何気ない日常を切り取った胸熱な作風は幅広い世代から支持されているが、普遍的な人々の営みを温かく見つめる視点は『HERE 時を越えて』にも通じる。「人生は思い通りにはなりません。夢は楽しいけれど、現実は厳しく上手くいかないことばかり。でも、なんとかやって来れました」とパラパラ漫画の根底に流れる想いを語ってくれた鉄拳。“定点カメラ”という見せ方の部分でも共通点を持つパラパラ漫画もある。ある男女の人生を描いた「振り子」という作品だ。「ここでは時計をカメラに見立てています。振り子の丸い部分が定点カメラになっているので、それは共通していますね」。
パラパラ漫画のアイデアについて「自分の体験のほか、親父や知人の人生などを見て感じたことをすなおに描いています」という鉄拳だが、そのルーツの一つに映画もあったようだ。「昔から映画が好きで、子どものころからよく映画館に通っていました。ただ観ていただけと思っていましたが、物語の流れやカメラの構図、起承転結の展開などを無意識に覚えたのかもしれません」と振り返る。自己流で人気コンテンツを生み出した鉄拳だが、映画から受けたインスピレーションが血肉になっているようだ。
「映画の感じ方は人それぞれ。“僕はこう感じました”という表情にしました」
鉄拳が制作してくれたのは、リチャードとマーガレットの半生が描かれた4枚のイラスト。「映画を通して特に印象に残った場面があり、物語全体を見て“実はこうだった”という感じで描いてみました」と説明するこのイラストは、“表情”がポイントであるという。「映画の感じ方は人それぞれだと思いますが“僕はこう感じました”という表情にしました」。
1枚目はまだ10代のリチャードとマーガレットのささやかな結婚式だ。「古代に先住民がここで貝殻の首飾りをプレゼントし、永遠の愛を誓っています。リチャードの父アルもこの場所で子どもができたことを知り、この家を買って住むことを決めているんです」と印象に残ったポイントを挙げる。
2枚目はリチャードとの間にすきま風が吹きはじめたマーガレットの50歳の誕生日シーン。「祝いの席のはずなのにマーガレットが“本心”を告白し、皆は笑顔でいるものの実は戸惑っているんです」と、この場面を選んだ理由を説明。現在解禁されている場面写真とは違った“表情”の捉え方となっていて、この理由はぜひ本編を観て感じ取ってほしい。
それぞれの道を歩き始めたリチャードとマーガレットが感謝祭に集う3枚目は、「フォーチュンクッキーを食べるシーンでは、リチャードはくじに『もう一度やり直す』と書かれたと言いますが、本当にそう書いてあったのか、やり直したいから嘘をついたのか?少し謎ですね」と、好きなシーンだと挙げつつも疑問点を説明。この疑問がイラストでのリチャードの“表情”にも現れているのだろう。
そして最後は、年老いた2人が家で再会するシーン。「からっぽの部屋にイスを並べ、2人が久しぶりに座る特に印象深かったシーンです。マーガレットは少し認知症に入っていますが、徐々にこの部屋でおきた出来事を思い出し、振り返る場面が大好きで、2つの場面を1つのイラストにしました。物語全体を見て、僕が受け取ったイメージで描きました」と説明する。1枚ずつでも、鉄拳らしくパラパラ漫画のように動きを感じるストーリー仕立ての4枚は、映画を観終えた後にはより深みを感じることができるはず。
これまでにない着想で、普遍的な家族の物語を描いた『HERE 時を越えて』。ゼメキス監督らしい大胆な映像と絶妙なストーリーテリング、そして今回鉄拳が描いてくれたイラストの意図を、スクリーンでじっくりと味わってほしい。
取材・文/神武団四郎