世界の様々な映画と出会う機会を提供すると同時に、是枝裕和監督や濱口竜介監督ら現代の日本映画界を支える作り手たちを輩出してきた“ミニシアター”。だが、ミニシアターは設備の老朽化や事業継承などの問題によって現在進行形で存続の危機に直面している。この状況を打破すべく、2024年夏より全国の映画館や興行場を束ねる「全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)」によるミニシアター支援プロジェクト、「#ミニシアターへ行こう」が展開中だ。
また『正体』(公開中)で第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた藤井道人監督らが所属するコンテンツスタジオ「BABEL LABEL」は、その設立15周年を記念し、全国のミニシアターを巡り、感謝を伝えにいく特集上映「BABEL LABEL 全国ミニシアターキャラバン」が、3月22日(土)より新潟・市民映画館シネ・ウインドを皮切りに開催される。
そこでMOVIE WALKER PRESSでは、「BABEL LABEL 全国ミニシアターキャラバン」のスタートにあわせて、「BABEL LABEL」に所属する藤井道人監督、原廣利監督、山口健人監督、アベラヒデノブ監督、志真健太郎監督の5名にインタビューを敢行!それぞれの監督たちは、クリエイターとしてミニシアターの置かれている現状にどのようなことを感じているのか?彼らがインディーズ時代に関わりの深かったミニシアターとの思い出とあわせて話を聞いた。
※質問は全4問。初出以降はそれぞれの質問を番号のみで表示しています。
藤井道人監督「ミニシアターという観客との対話の場が大事」
(1)BABEL LABEL15周年企画「全国ミニシアターキャラバン」への意気込みや想いをお聞かせください。
「僕らはインディーズ時代に原宿キネアティックという小さな劇場で、自分たちでもぎりをしたりチラシを作ったり、劇場に直接交渉して自主興行をするというところから始まりました。なので映画館への恩や感謝はとてもあります。いまは配信サービスやシネコンなども、映画と出会う場がたくさんあるなかで、なぜミニシアターなのかといえば、それはやはり自分たち若手映画作家を育ててくれた場所だから。そのことを忘れず再確認し、かつ今後の若い監督たちもミニシアターが自分たちを育ててくれる場所なのだと感じてもらえるよう、願いを込めて今回の機会を作りました」
(2)ミニシアターという場所は、クリエイターにとってどのような場所なのでしょうか?
「ミニシアターは観客と作り手の距離がすごく近い場所です。なので上映が終わった後に直接観客とお話ができ、そこで得られた言葉のひとつひとつが、『次はこういう作品をつくろう』と思える成長の糧となってきました。クリエイターにとっては成長の場であり、観客の皆さんにとってはクリエイターと近いからこそ得られる映画体験がある。そういった点で、映画文化には必要不可欠な場所だと僕は思っています」
(3)クリエイターとして、特に印象に残っているミニシアターはありますか?
「『青の帰り道』の時、一次興行がすぐに終わってしまって非常に悔しい思いをしたことがありました。そんな時に、その悔しさを知って声をかけてくれたのがアップリンク渋谷でした。そこでリバイバル上映を35日間やったところ、たくさんの観客が来てくださり、一次興行を上回る収益をあげることができました。また、自分を育ててくれた劇場としては、オーディトリウム渋谷(現ユーロライブ)と新宿武蔵野館もあります。武蔵野館は僕らのようなインディーズ映画をかける劇場ではなかったのですが、当時の支配人の方が僕らをあたたかく迎え入れてくれました。いまでもとても感謝しています」
(4)多くのミニシアターが現在苦境に立たされているなか、クリエイターとして今後やっていきたいこと、またはやらなければならないと考えていることは?
「時代が変わるということは、人々の関心や、趣味嗜好も時代と共に変わることは世の常だと思います。なので、理想論だけでは映画館は生き残って行けないと僕は思います。ただ、ミニシアターという観客との対話の場が、映画監督やクリエイターの人たちの意識、技術、哲学を磨くことを経験している僕たちだからこそ、ネットの言葉だけではなく、直接の対話が大事であると後続の監督たちにも伝えていきたいと思います」
原廣利監督「ミニシアターは原点ともいえる場所」
(1)「15周年という節目に、このような企画をできることに本当に感謝いたします。全国各地のミニシアターで公開。こんなにうれしいことはありません。この企画に賛同してくださいましたミニシアター関係者の皆様、本当にありがとうございます!ミニシアターというアットホームな空気のなかで、映画の話をたくさんできればと思っております」
(2)「僕らBABEL LABELは、まだ駆け出しの20代の頃に原宿のキネアティックという小さな映画館で自主映画を撮っては公開してを繰り返していました。なので、ミニシアターは原点ともいえる場所です」
(3)「やはり原宿キネアティックです。BABEL LABELとして最初の自主映画を公開させていただいたミニシアターです。上映が終わった後に話すお客様との距離が本当に近く、毎晩そのまま飲みに行って映画の話を永遠にしていました。また、オーディトリウム渋谷でも多くの自主映画を公開させていただきました。全国公開映画の『朽ちないサクラ』の公開前の監督ティーチインで、その場所に帰って来られた時はとても感慨深いものがありました」
(4)「今回のミニシアター行脚は、BABEL LABELの作品で少しでもミニシアターに足を運ぶきっかけになってもらえばという願いが込められています。BABEL LABELの作品を観て、『ミニシアターではこんな作品もやっているんだ!』『だったら今度観に行ってみよう』と思っていただけたら一番うれしいことです」

■BABEL LABEL15周年特設サイト:https://retrospective.babel-pro.com/
【監督プロフィール】
●藤井道人
1986年生まれ。日本大学藝術学部映画学科を卒業後、「BABEL LABEL」を設立。『オー!ファーザー』(14)で商業映画監督デビューを飾り、『新聞記者』(19)で数多くの映画賞を受賞。その後もコンスタントに作品を発表しつづけ、『余命10年』(22)では興行収入30億円の大ヒットを記録。『青春18×2 君へと続く道』(24)で初の国際共同製作に挑み、『正体』(24)は第48回日本アカデミー賞で最多12部門で13の優秀賞を受賞。監督賞を含む3部門で最優秀賞を獲得した。
●原廣利
1987年生まれ。日本大学藝術学部映画学科を卒業後、広告制作会社を経て「BABEL LABEL」に参加。広告映像のディレクションのほか、「絶メシロード」や「八月は夜のバッティングセンターで。」や「真夜中にハロー!」など数々の深夜ドラマで監督を務める。人気ドラマ「あぶない刑事」シリーズの8年ぶりの新作となった『帰ってきた あぶない刑事』(24)で長編監督デビューを飾り、続く『朽ちないサクラ』(24)と共に高い評価を集めた。4月にTBSの金曜ドラマ枠で放送開始される「イグナイト -法の無法者-」の監督も務める。
●山口健人
1990年生まれ。早稲田大学文学部演劇・映像コース卒業。大学在学中より映像制作を始め、2016年より「BABEL LABEL」に所属。広告やMVを数多く手掛け、近年では『静かなるドン』(23)、『生きててごめんなさい』(23)などを制作。制作決定したNetflixシリーズ「イクサガミ」では、藤井道人と共に監督、脚本を務める。
●アベラヒデノブ
1989年生まれ。映画監督、脚本家、俳優。大阪芸術大学芸術学部映像学科の卒業制作として製作した監督・脚本・主演作『死にたすぎるハダカ』(12)で2012年モントリオール・ファンタジア映画祭入賞。同年より「BABEL LABEL」に参加。監督として『ジャパニーズスタイル』(22)、ドラマ「あの子の子ども」(24)など。俳優としても『ヤクザと家族』(21)や、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」などに出演している。
●志真健太郎
1986年生まれ。日本大学藝術学部映画学科を卒業後、制作会社勤務を経て、ニューヨークでドキュメンタリーを撮影。帰国後、藤井らと共に「BABEL LABEL」を設立。ミュージックビデオや広告映像を中心に活動し、これまで多数の広告賞を受賞。2022年にNHK総合で放送された「セイコグラム 〜転生したら戦時中の女学生だった件〜」では監督・脚本を務め、ABEMAオリジナルドラマ「警視庁麻薬取締課 MOGURA」では監督を務めている。