父は『サイコ』の名優!『ロングレッグス』監督が明かす、“1993年”を舞台にした理由とは?
「暗い内容であっても、アートは洗練された美しいものであるべきだと感じています」
――『ロングレッグス』はサスペンスホラー、サイコスリラーであると同時に、オカルトの要素も含んでいますね。これを現実の物語として観せるうえで、どんな点に気を配られたのでしょう?
「私はヨガをやっていますが、その時のようなゆったりした空気のなかにいると気持ちに余裕ができて、インスピレーションが入りやすくなる、そんな気がします。私たちは容器に過ぎず、そこに入り込んできたものを素材にしてアートをつくるような感覚ですね。なので、言葉で説明するのは難しい。プランを立てて出来ることでもないと思います。ただ、これは私自身の物語であり、それを投影したリーと母親の物語でもあります。そこからブレないよう心がけました。連続殺人やオカルトの要素は、私の容器に入ってきたインスピレーションにすぎません。
私たちはアートに対する愛をもって映画を作っています。私の父(注:アルフレッド・ヒッチコック監督作『サイコ』のノーマン・ベイツ役などで知られる俳優のアンソニー・パーキンス)は映画というアートの中心にいましたから、私にもその思いは強く宿っています。アートである以上、たとえ内容がダークなものであっても、洗練された美しいものをつくるべきです。『ロングレッグス』でも、そのようなチャーミングな作品を目指しました」
――劇中ではT・レックスの曲が使われ、歌詞も引用されていますが、これもインスピレーションの一つだったのでしょうか?
「そうです。脚本を執筆している時、たまたまApple TV+で配信していた音楽ドキュメンタリーを観ていたのですが、そこにT・レックスのセクションがあり、それを観て映画のピースとしてハマるのでは?と思ったのが発端です。このとき私は聖書の『ヨハネの黙示録』に出てくる怪物について考えていたのですが、映画の冒頭に歌詞を引用した『ゲット・イット・オン』にもハイドラ(Hydra=ヒドラ)というギリシャ神話の怪物が出てきます。それはこの映画の世界観に一致すると思えたのです」
――その“怪物”を演じたニコラス・ケイジについても教えてください。
「ニコラスはとてつもない映画ファンで、とにかく映画に詳しいんです。それだけに、これまでスクリーンを彩ってきた映画人に対して深い敬意を抱きながら仕事をしています。そこに感銘を受けました。また、T・レックスの話に戻りますが、キャストが決まっていない段階でニコラスと初めて話しました。彼に脚本を送ったら、電話をくれたんです。ニコラスはこの映画に乗り気だったので、T・レックスの曲のような映画にしたいという話をしたら、彼はちょうど前日に息子さんにT・レックスの曲のギター奏法を教えていたとのことでした。これはもう運命ですね」
取材・文/相馬学