父は『サイコ』の名優!『ロングレッグス』監督が明かす、“1993年”を舞台にした理由とは?
2024年に公開されたインディペンデント系スタジオの作品中でナンバーワンの北米興行収入を上げたサスペンスホラー『ロングレッグス』(公開中)が、ついに日本公開となった。ごく普通の家庭の父親が妻子を惨殺するという凄惨な事件が続発。得体の知れないなにかに操られたかのような事件の捜査に、直観の鋭い新人FBI捜査官のリー・ハーカー(マイカ・モンロー)が当たる。やがて捜査線上に浮かびあがる、ロングレッグス(ニコラス・ケイジ)と呼ばれる不気味な存在。その正体が判明した時、リーはおどろくべき事実と直面することになる。
意外性に満ちたサスペンスフルな展開、ニコラス・ケイジによるシリアルキラーの怪演など、見どころは多いが、とりわけ目を引くのは不気味なムードに覆われた映像の作りこみ。これは俊英オズグッド・パーキンス(オズ・パーキンス)監督の手腕によるところが大きい。『呪われし家に咲く一輪の花』(16)、『グレーテル&ヘンゼル』(20)などホラーの分野でキャリアを重ね、演出に磨きをかけてきた彼は、本作になにを投影したのか。PRESS HORRORではパーキンス監督にオンラインでインタビューを行い、作品に刻まれた“恐怖”の深淵に迫った。
「1990年代のサイコスリラーに描かれた、カリスマ的なシリアルキラー像に影響を受けました」
――本作には、『羊たちの沈黙』や『セブン』など1990年代のサイコスリラーからの影響が色濃く出ているように感じられましたが、これは意識的なものでしょうか?
「そうですね。私は『羊たちの沈黙』が大好きです。ちょうど16、17歳の多感な時期に観たこともあり、多大な影響を受けました。もちろん『セブン』も大好きだし、デヴィッド・フィンチャーはミュージックビデオを撮っているころから好きな監督でした。彼が手掛けたマドンナの『ヴォーグ』のMVは本当にすばらしいと思います。『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士も、『セブン』のジョン・ドゥも非常に独特です。実際の連続殺人犯は負け犬っぽい空気をまとっていますが、彼らはファンタジーの世界の住人で、カリスマ的で詩的で天才的な、遊び心のあるキャラクターです。そこに影響を受けたことは否定できません」
――1990年代という時代背景も、当時の空気感を狙ってのことですか?
「そうです。もともとの脚本の時代設定は1992年でした。しかし、そうするとFBIのオフィスに貼られる大統領の写真がジョージ・H・W・ブッシュになってしまう(注:第41代米国大統領。1989年1月から1993年1月まで在任)。イヤな時代を思い出してしまうので、翌年に変えました(笑)。次の大統領のビル・クリントンも問題はありましたが、まだマシだろうと」
――映像の鮮烈さも印象に残りますが、どんなホラー作品から影響を受けたのですか?
「ホラー映画ということは、じつはあまり意識をしていません。撮影監督のアンドレス・アロチ・ティナヘロと話したのは、ガス・ヴァン・サントの『マイ・プライベート・アイダホ』の雰囲気が、いかにすばらしいかということでした。ポートランドの町の湿った、灰色の空気感です。私たちは、あの美しさを目指そうと思ったんです」