『フロントライン』監督&プロデューサーが忘れないでほしいと願う、未知のウイルスに立ち向かった日々、ささやかな日常をすばらしいと思える気持ち

インタビュー

『フロントライン』監督&プロデューサーが忘れないでほしいと願う、未知のウイルスに立ち向かった日々、ささやかな日常をすばらしいと思える気持ち

「試写を観た小栗さんから『全員が主人公の映画になっていました』という感想をもらった時はすごくうれしかった」(増本)

——増本プロデューサーが関根監督にお声がけをした理由を教えてください。

増本「今日もお話を聞きながら、やっぱり関根監督にお願いしてよかったと思えたことがあって。それは、痛みを伴っている人のことを常に忘れないで撮ってくれるということ。これって実はとても難しいこと。撮影前は注意すべき点も含めていろいろと考えていたはずなのに、いざ撮影に入ればかっこいい画を撮りたくなるし、もっとおもしろく、もっと泣けるようにみたいな方向に流れていきがち。でも、関根監督はこれまでに積み上げてきたものがあるからこそだと思うのですが、撮影中も、必ず痛みを抱えた人々への配慮があるんです。
例えば、医療ドラマを作っていると、闇雲に難しい症例探しをするようになる傾向があります。とにかく皆んなで力を合わせて難病を治したらドラマとしては盛り上がるよね、みたいな話に行ってしまいがちなんです。そんな時に関根監督は『でもいま、その難病でリアルに苦しんでいる人いるよね』と言ってくれるし、寄り添ってくれる。ドキュメンタリーとエンタテインメントの中間のようなものを作る姿勢としてふさわしくなくなってくることが往々にしてある制作現場において、関根監督がいてくれればそんな迷路に入り込む心配はないなと思えるんです。それこそ僕が最初に書いた脚本に対してのコメントもそうでした。怒りがあふれすぎているって指摘してくれて。いろんな人の心に響く物語にするには、少し怒りを抑えほうがいいって」

関根「すみませんでした(笑)」

DMAT、官僚、マスコミ、それぞれの思惑が交差する未曽有のパンデミックを忠実に再現
DMAT、官僚、マスコミ、それぞれの思惑が交差する未曽有のパンデミックを忠実に再現[c] 2025「フロントライン」製作委員会

増本「いやいや。もちろん最初の台本でもやるとは言ってくださったけれど、そういう言葉があったのはすごくうれしかったです。いろいろな人の心に響く、届けることこそいつも自分が気にしていたことなのに、自分の主張が先行しちゃって、違う意見を持っている人を切り捨てる可能性があることに気づかせてもらえたのは、本当にありがたくて。関根監督にお願いしてよかったなと思いました」

関根「怒りというのは、物事を前に進めるための大切なパワーでもあります。撮影中にパンデミックに遭遇し、とんでもない瀬戸際に立たされている時に、そこで得た知識からさらに広げてものづくりをするというパワーはすごいと思いました。ある種の怒りみたいなことが物事を前に進めてくれるものなんですよね。ただ、映画を公開するとなると、いろいろな立場の人がいます。戦争を例に挙げれば、それぞれの正義のぶつかり合いから起きるのが戦争。少し考えましょう、一緒に話し合いましょうと対話を呼び起こそうとするなら、どちらの立場にも立ってディスカッションしなきゃと思うんです。増本さんが僕の声も聞き、書き直すところまでやってくださったのは監督として本当にありがたいと思いました」

——事実に基づく物語。モデルになった方も実際にいて、集合体として一人のキャラクターになっている方もいるとのこと。「こうあってほしい」「こういう人がいてほしい」という願いが入っているのかなと感じるキャラクターもいました。例えば、小栗さん演じる結城と対策本部でぶつかり合う、松坂さんが演じた厚生労働省から派遣された役人の立松とか。


増本「松坂さんのモデルに関しては、数人の集合体なのですが実際にモデルになった人やお話した人のほうがもっとぶっ飛んでいます(笑)。僕たちにある役人のイメージとはちょっと違うかもしれません。気になったキャラクターや仕事については、ちょっと調べればいろいろ出てくる時代なので、ぜひ皆さん自身で深掘りするきっかけになればいいなと思っています」

関根「モデルになった方や取材をさせてくださった方たちは、かなりのインパクトを感じる方が多かったですよね。ある意味、映画のほうがマイルドになっている(笑)」

増本「今回はキャストの巧さにもすごく助けられました。脚色や演出、演技の痕跡が見えた瞬間に、引いてしまう繊細なテーマであると思うんです。その点は関根監督もすごく苦労したと思います。演出したいけれど、演出の痕跡は見せないようにした上で、しっかりとエンタテインメントとして楽しませるというのは作り手としての腕が試される部分だったと思います。キャストも『俺の見せ場だ!』とか『ここでやってやろう!』みたいなことをする人が一人もいなくて。事実に基づく物語としてのリアリティを崩さないようにどうやるのかを、監督、キャスト全員が同じ方向を向いて作ってくれました。その全部の積み上げで出来上がりました。試写を観た小栗さんから『全員が主人公の映画になっていました』という感想をもらった時はすごくうれしかったし、まさにこの映画の作り方、伝えたかったことを表している言葉だと思いました」

『フロントライン』は6月公開
『フロントライン』は6月公開[c] 2025「フロントライン」製作委員会

取材・文/タナカシノブ

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