20年ぶりにスクリーンで激突! 香港映画界永遠のビッグ2、トニーとアンディの強固な絆
マネーゲームの熱狂と絶望が映し出す香港現代史
この『インファナル・アフェア』が予想以上の成功を収めたからこそ、次の共演企画の実現がこれほど時間を要したのも致し方のないことではある。「鹿鼎記」から数えれば約40年もの時を経た『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』における両者の演技は、ともに揺るぎない自信と貫禄に溢れているが、「どこまで観客の心を揺さぶることができるか」という俳優としての旺盛なチャレンジ精神も衰えることなく感じさせる。そういう意味で、今回はいつになくトニー・レオンの「怪優ぶり」がスパークしており、かつてない名勝負と言えよう。
トニー:ぜひ見てほしいのは前回(『インファナル・アフェア』)と真逆の役だという点です。今回は私が悪人で、アンディさんが正義の役。新鮮な組み合わせですし、金融事件を扱っているところも、ぜひ日本の皆さんにも楽しんでいただけたらと思います。
(『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』オフィシャル・インタビューより)
もうひとつ、本作の重要なポイントは、これまでフェリックス・チョン監督が描いてきた「香港人とカネの関係」というテーマの集大成的作品だということ。それはアンディとトニーがこの企画に参加した大きな理由でもあるだろう。
かつてジョニー・トー監督も『奪命金』(11)で描いたように、株式投資や不動産転がしなどのマネーゲームは、多くの香港人に熱狂と絶望をもたらした麻薬のようなビジネスだ。フェリックス・チョン監督は本作の製作動機として、幼少時に見た忘れられない光景を挙げている。
フェリックス:幼い頃、周りの大人たちが突然塞ぎ込み、悲惨な状態になっていったことが何度かありました。いつの間にか友人や遊び仲間たちの家族も不運に見舞われていました。成長した時に、それは長年にわたり異なる金融危機が起こっていたからだということを学びました。好奇心から、その世界についての情報をたくさん読んで研究しました。そして脚本家になった時、そうして得た情報を物語にしたいと思ったのです。
(『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』オフィシャル・インタビューより)
一攫千金の夢にのめり込む「香港人気質」と、天井知らずの欲望が招く悪夢のような状況を描くことは、この都市と、そこに生きる人々の姿を見つめるうえでは外せない。そのことを明示したのが『盗聴犯 ~死のインサイダー取引~』(09)に始まる『盗聴犯』三部作であり、前作『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』(18)だった。『ゴールドフィンガー』はさらにその源流を遡り、香港現代史を再検証しようとする過激な挑戦なのである。
そして、それは80年代前半、まさにスターダムを駆け上ろうとしていた若き日のアンディとトニーが目撃した光景でもあったはずだ。激動の2020年代に彼らが放つ香港の裏面史、その1ページをぜひスクリーンで見届けてほしい。
文/岡本敦史