ブレンダン・フレイザーが語る、『ザ・ホエール』の旅で手にした「オスカー以上に価値あるもの」
「アロノフスキー監督は、『もし映画監督にならなければ、野球の審判になっていたと思う』と言っていた」
アロノフスキー監督は、チャーリー役に適した俳優を見つけるまでに約10年かかったという。アロノフスキー監督は「『復讐街』のトレーラー映像でブレンダを見て、うれしさのあまり顔を輝かせた」とチャーリーを演じられる俳優を見つけた時の喜びを語っているが、一方のフレイザーも、アロノフスキー監督との出会いは「自分の人生において、本当に大きなものだった」と相思相愛の想いを吐露し、「どんな役者でも、彼と仕事をしたいと思うものですよね。声をかけてもらえて、本当にラッキーだった」と感慨深げ。
「当初、ダーレンに対して脅威を感じていたことは認めます」と笑いながら、「それはダーレンがアーティストであり、コラボレーションする相手に高いスタンダードを求める方だからこそ。それはとてもいいことで、みんなの能力を引きあげることになるんですね。よくダーレンが言っているのが、『もし映画監督にならなければ、野球の審判になっていたと思う』ということ。それくらいすべてを見通す力を持っているし、最終的な判断を下すことができる人。それでいてダーレンは、誰であろうと現場でアイデアを出すことを認め、一番いいアイデアを選ぶことができる。それこそが、彼が監督として秀でている証拠だと思う。僕は彼に敬意を感じているし、自分に寄せてくれた信頼に対してもリスペクトを感じています」としみじみと語る。
自分を捨てたチャーリーに容赦ない怒りをぶつける娘のエリーを演じたセイディー・シンク、チャーリーを支える看護師リズ役のホン・チャウ、駆けだしの宣教師トーマス役のタイ・シンプキンス、元妻メアリー役のサマンサ・モートンらの演技もすばらしく、心に響くチャーリーとの掛け合いを披露している。フレイザーは「お互いへの思いやりに満ちた現場だった」と述懐する。
「皆さんも同じだと思うけれど、コロナ禍ではみんながお互いの健康と安全を考えて、慎重に振舞っている。本作の撮影現場も同様で、そのお互いへの思いやりが、秘密の材料となって、作品の質につながったと思っています。また僕は、役者として知っていること、やれることのすべてを出し尽くすだけだと思っていたので、そこでなにか自分を証明しなければという気持ちもなかった。その結果、出し尽くしたという実感を得ました」と充実の現場を振り返りつつ、「同時に、全部出し尽くしたあとには、『これが観客の皆さんに届かなかったらどうしたらいいんだろう』という気持ちにもなりましたが」と苦笑い。「でも最初の映画祭でのプレミア上映を観ている時から、本作の放つものと観客の想いすべてが合致したような気がした。このストーリーは、私たちが人生において見過ごしてしまうかもしれないような日常の風景を見せてくれる。あらゆる人々にとって、共感力を呼び覚ます旅ができるような作品になったんだと感じています」と力強く話す。