韓国映画の巨匠たちが釜山国際映画祭に集結!『もしもの愛』イ・チャンドン、ヨン・サンホ、ナ・ホンジンらトークの模様を総まとめ
最新作で常連俳優が感じた、ホン・サンス監督の変化
ヨン・サンホ監督にも増して多作な巨匠と言えば、ホン・サンス監督だろう。『Nowhere to Lay My Eyes(英題)』は、彼の35作目となる最新作で、第79回ロカルノ映画祭では監督賞と俳優賞をダブル受賞した。両親の離婚後、疎遠になっていた母を訪ねるため、弟とともに済州島を訪れたサンヒ(キム・ミニ)。母の再婚相手であるドキュメンタリー監督(クォン・ヘヒョ)や、その娘(パク・ミソ)らと気まずい時間を過ごしながらも、ささやかな喜びを見いだしていく物語だ。GVには、ホン・サンス監督作品の常連俳優であるクォン・ヘヒョとパク・ミソが揃って登場。クォン・ヘヒョは、監督が率いる個人映画会社「チョンウォン社」ならではの独特な映画製作の舞台裏を明かした。
「ホン・サンス監督はまず『いつからいつまで、どこで映画を撮るか』を決めます。そして、その場所にどんな俳優がいれば、どんなおもしろい物語が生まれるかを考え、撮影スケジュールとロケ地が決まった段階で『スケジュールは空いている?』と電話がかかってくるのです。このとき、私たち俳優はどんな話なのか尋ねません。そして毎朝、その日の分のシナリオを撮影の1時間ほど前に受け取り、必死に覚えます」。そのため、俳優たちも完成した映画を劇場で観て初めて「こういう映画だったのか」と驚くのだそうだ。さらに、長年タッグを組んできた盟友として、「なぜかわかりませんが、だんだんホン・サンス監督はシニカルさよりも人の心を打つ作品を作るようになったようですね」と、監督の作風の変化について感慨深げに語った。
韓国ではすで複数鑑賞者も!ナ・ホンジン監督9年ぶりの監督復帰作『HOPE』
そして、イ・チャンドン監督と同じく、久々に新作を発表したナ・ホンジン監督の『HOPE(原題)』も、「KOREAN CINEMA TODAY-PANORAMA-」部門で上映された。韓国では7月より劇場公開されており、作品の解釈や評価をめぐってさまざまな意見が飛び交うなど、国民的な注目を集めている。のどかな港町ホポが、ある日突然、謎の生命体に襲撃される。町に暮らす警察署長ボムソク(ファン・ジョンミン)や、彼のはとこであるソンギ(チョ・インソン)、ソンエ巡査(チョン・ホヨン)らが繰り広げる死闘を描いた作品だ。GVにはナ・ホンジン監督をはじめ、チョ・インソン、大工の青年ヤンベを演じたウム・ムンソクが登壇した。
MCを置かずにスタートしたGVでは、ナ・ホンジン監督が自ら進行役を買って出た。本作を構想するきっかけとなったのは、2016年頃にアメリカでNetflixの関係者と会ったこと。当時は韓国映画界でもNetflixとの共同製作が始まっていた時期で、監督は「本当に映画館で観たい映画を作ろうと、それまで準備していた作品を整理し、本作から始めようと考えた」と振り返った。また、当初の構想は完成版よりも上映時間が長くなるもので、シリーズ化も検討したという。しかし、最終的には「この映画は十分完結している」と判断し、現在の形に落ち着いたそうだ。
チョ・インソンの起用については、「私が業界で仲良くしているのがキム・ユンソク先輩とリュ・スンワン監督なんですが、会えばいつも大騒ぎでチョ・インソンさんの話ばかりするんですよ。話題の40〜50%は彼の話。一体どんな方なのか?と気になって作品を拝見して、『HOPE』に出演をお願いすればインソンさんが今まで見せてこなかった部分を引き出せるかもしれないと思いました。インソンさんも役への渇望があったのかもしれません、すぐに『やります』とお返事してくれました」と、意外な交友関係を交えながら明かした。
そんなチョ・インソンは、『もしもの愛』も含めてGVやオープントークに精力的に参加。積極的に話を回して場を盛り上げるなど、サービス精神旺盛な姿を見せた。ソンギを演じるうえで最も重要だったのは、「緊張感」だったという。「緊張感を保つために、そう感じさせるような荒い呼吸をし続けなければいけませんでした。監督も、ただ歩いているだけのシーンでも同じ緊張感を維持するような呼吸でいて欲しいと仰っていました。でもずっと続けていると頭が痛くなったり、ぼんやりしてしまうこともあって、監督もそれを見逃さずに常にチェックしてくれました。私たち俳優たちも、互いに強く意識していました。アクションは行為なのでとにかくやるのみですが、その行間の緊張感を呼吸で埋めようと努力した記憶がありますね」と、緊張感を表現するための苦労や、監督や共演者たちと支え合いながら臨んだ撮影現場の様子を振り返った。
さらにナ・ホンジン監督は、俳優陣とスタッフの努力にも言及した。「『HOPE』のスタッフは、ほとんど私が映画監督になりたての頃から仕事をしてきた方々ばかりです。久しぶりの撮影でしたが、スムーズで楽しくやり遂げることができました。そして俳優の皆さんにも、感謝せずにはいられません。本当にすばらししかったです。毎日感謝しても足りないほどの熱意を持って撮影に臨んでくださいました」と締めくくった。かつては鬼気迫るストイックさで有名だったナ・ホンジン監督が、俳優とスタッフへ率直な感謝を伝え、労ったことが印象的だった。
取材・文/荒井 南

