「すごく喜ばしいこと」児玉美月&ジャガモンド斉藤が『ファーストボイス』に感じた“希望”とは?
映画『ファーストボイス』(10月2日公開)のMOVIE WALKER PRESS試写会が9月16日に東京都内で行われ、児玉美月(映画批評家)とジャガモンド斉藤(映画紹介人/お笑い芸人)が出席した。
本作は、100%負けると言われた前代未聞の“ハラスメント裁判”に挑んだ女性たちの実話に着想を得たリーガルエンタテインメント。舞台は、日本が好景気に沸いたバブル経済絶頂期、女性は結婚までの“腰掛け”として働く存在だと多くの人が思い込んでいた時代。お人好しの弁護士・朝日道子(綾瀬はるか)のもとに、職場で理不尽な嫌がらせを受け、大好きな仕事も奪われたという恵(ファーストサマーウイカ)が提訴したいと訪れる。それは会社と上司を相手にした、前例なき“ハラスメント”を巡る裁判。新人弁護士の栞(松本穂香)は「勝ち目がない」と反対するが、朝日は「この裁判は必ず未来に繋がる」と立ち上がる。
エンドロール後に大きな拍手が上がるなど、上映後の余韻と熱気が漂う会場に姿を現した児玉と斉藤。MeToo運動以降、アメリカで『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(22)や『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)など女性が力強く立ち上がる姿を描いた映画が登場していることに触れた児玉は、「綾瀬はるかさんなど有名な俳優さんが出演をして、みんなが楽しめる大作として、こういった題材を描いた作品が日本でも出てきた。すごく喜ばしいこと」と称賛。
斉藤も「日本ではドキュメンタリーやインディーズ映画、ミニシアター向けの作品ならあるかもしれないけれど、これだけの大きな規模で、国民的な俳優さんが出られる作品で、こういった題材をやられた。かなり大きな希望になると感じている」と同調し、「こういった映画がヒットして評価されることで、これからもやってみようというムーブメントが起きるさきがけになるような映画になるといいなと思う」としみじみ。さらに社会的なテーマを扱いつつも「いい意味で軽さがある」ところも魅力だと続けると、児玉も「私は、グレタ・ガーウィグの『バービー』を思い出した」と女性をエンパワーメントする社会性と、誰もが楽しめるエンタメ性を兼ね備えた映画だと太鼓判を押した。
斉藤は、朝日弁護士を演じる綾瀬はるかの持つポジティブな魅力も、映画に大きな力を与えていると分析。“綾瀬はるか力”と表現した斉藤は、「朝日弁護士は、『ワクワクしてきた』『レッツビギン!』という魔法の言葉で乗り越える。いろいろな壁にぶち当たった時にも、『ワクワクしてきた』と言うんです。綾瀬はるかさんじゃないと、そうはならないかもしれない。“綾瀬はるか力”で乗り越える」とにっこり。「ちなみに僕は『スター・ウォーズ』が大好きなのですが、愛情深く、お茶目な一面も持ちながらみんなを導いていく朝日弁護士の姿に『オビ=ワン』味を感じました(笑)。彼女はフォースの使い手ですよ!」と語り、独特な視点で会場の笑いを誘った。
同じく「うまく演じていましたよね」と綾瀬の演技力と存在感に舌を巻いた児玉は、「この3人のバランスもすごくいい」と朝日&恵&栞の関係性にも注目した。「ファーストサマーウイカさん演じる恵は、感情を全面に押し出して、観客の方に共感をもたらすようなタイプ。松本穂香さん演じる栞は、彼女を見ながら“身に覚えがある”と感じる人も多いと思う。社会のなかで遭遇する経験を通し、劇中で一番変化していく役どころ。観客が自己投影する役どころでもある。親しみやすさを与えられる俳優さんとして、松本穂香さんはぴったりだと思いました」。
男性キャスト陣もそれぞれ熱演を見せており、恵がかつて勤めていた出版社の編集長で、年下で優秀な恵の才能を認められず、追い詰めていく澤口役を演じた水川かたまり(空気階段)について、斉藤は「さすが、上手だなと思った」と惚れ惚れ。「澤口編集長は、ちょっとなにを考えているかわからない感じがある。本人が(恵に対して)悪意を持ってやっているとも言い切れないみたいな、バランスがすごくうまい」と思いを巡らせると、児玉は「法廷で証言するシーンも、淡々と話しているわけではなく、戸惑いや逡巡がありながら言葉を紡いでいるような感じがあった」と、複雑な役どころを水川が説得力をもって演じていた姿を思い起こした。
また時代の移り変わりやキャラクター像を反映した衣装も、見応えがあると口を揃えた2人。衣装デザインを担当したのは、『国宝』(25)も担当した小川久美子。本作の前田哲監督とは、2002年公開の映画『パコダテ人』から何度も創作を共にしてきた。
「衣装からもいろいろなことを伝えている」と切り出した児玉は、「女性弁護団の衣装には、国をモチーフにしたコンセプトを設けていたそうです」と裏話を公開。「栞はロンドンをイメージしていて、チェックやアーガイル柄を取り入れていたり、襟に花柄の刺繍が入っていたりする。すごく凝っているなと思いました。栞がガーリーなテイストになっているのに対して、朝日弁護士はニューヨークをイメージしていて、ダークトーンのスーツ。これは世代間の違いも表しているなと思います。栞よりも世代が上である朝日弁護士は、より厳しい男社会のなかで、“男並み”に働いてこなければならなかったような背景を想像させる、メンズライクな仕事着」と衣装からも様々なことが読み取れると語った。
物語のクライマックスとなる最後の口頭弁論で、朝日弁護士が赤のボディコンに身を包んで登場する場面は、とりわけ鮮烈な印象を残すひと幕。
児玉は「朝日弁護士はそれまでメンズライクなダークトーンのスーツだったけれど、そこでは真っ赤な衣装で出てくる。男社会に同化していたところから、自分の道を切り開いていく変化も感じられた」といい、斉藤は「色彩の変化によって、風通しがよくなるような気持ち良さがあった」とコメント。「私たちは着たい服を着るし、この服は戦闘服なんだと最後の口頭弁論で表現する。画面としても“いいシーンだな”と華やかになって、視覚的な気持ちよさもある」と清々しいクライマックスだと称えていた。
児玉は、朝日弁護士のちょっとしたセリフにも惹きつけられたとのこと。「朝日弁護士が、女性もまた旧来的なジェンダー観を内面化してしまっていることに、ちゃんと問いを投げかける場面も印象的。恵が『女の幸せ』という言葉を使った時に、『女の幸せってなに?』と突っ込んだり、木村多江さん演じる宮本弁護士が『家族を犠牲にする覚悟はある?』と聞いた時に、『女性の権利を勝ち取るための裁判で、女の私が家族を犠牲にするなんておかしくないですか』と突っ込んだりする。男性が仕事を頑張るというと『家族のため』になるのに、女性が仕事を頑張るとなると、『家族を犠牲にする』とされてしまう。それを朝日弁護士が指摘していく」と朝日弁護士が女性側の固定概念も指摘していく場面に言及すると、斉藤も「価値観をくつがえしていく映画でもあり、ハッとさせられるシーンがかなりありました」とうなずきつつ、「男女の対立を描く映画ではなく、男性から見ても楽しめる視点がいっぱいあった」と感想を吐露していた。
取材・文/成田おり枝
