列車タダ乗りの帝王vs無賃乗車絶許マン…押井守が熱弁する、『北国の帝王』の“無意味な”野望と情熱【押井守連載「勝手にジャンル。」第2回前編】

列車タダ乗りの帝王vs無賃乗車絶許マン…押井守が熱弁する、『北国の帝王』の“無意味な”野望と情熱【押井守連載「勝手にジャンル。」第2回前編】

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映画を観るうえで指標の一つとなる“ジャンル”。押井守連載「勝手にジャンル。」では、押井監督が「ホラー」や「SF」など一般に周知されているジャンルではなく、独自の目線で“新しいジャンル”をつくり、さらなる映画の愉しみ方を追求していきます。

今回の連載では、一つの新ジャンルにつき連載3回分、代表的な作品を例に挙げつつ押井監督が解説していく形式となっています。第2回では、引き続き新ジャンル「コーチ映画」について『北国の帝王』(73)を取り上げ、その定義を解説していきます。

新ジャンル「コーチ映画」について解説!
新ジャンル「コーチ映画」について解説!撮影/河内彩

「アルドリッチはその作品すべてが『コーチ映画』といってもさしつかえない」

――押井さんのコーチ映画の2本目は『北国の帝王』です。大恐慌時代のアメリカを舞台に、貨物列車のタダ乗り野郎ことホーボーの“帝王”と、その座を奪いたい若造ホーボー、彼らを列車から叩き落すことに情熱を傾ける鬼車掌の攻防戦を描いています。帝王にリー・マーヴィン、若造にキース・キャラダイン、車掌にアーネスト・ボーグナイン。監督はロバート・アルドリッチです。

「若い人たちは知らないんじゃない?この映画。アルドリッチもいまはもう語られなくなった監督の1人だよね。アルドリッチはその作品すべてが『コーチ映画』といってもさしつかえない作品ばかりを撮った人。その一つとして今回挙げたのが『北国の帝王』です。登場人物は(ほぼ)3人だけ。“帝王”と呼ばれるベテランは絶対失敗しないことで知られていて、その狭い界隈のなかでは大変尊敬されている。そこに現れるのがホーボー界で名を残したいと息巻いている若造。一応才能はあるようなんだけど、性格がメチャクチャ悪い。最初からケンカ腰で帝王に向って『オレはあんた以上のホーボーになってやる!』と言い放つ。で、若造は帝王のスキルを盗もうと付きまとい、最初はうんざりしていた帝王もその義理堅さもあって受け入れる。でも、これだけじゃ映画にならないんで第三の男が現れる。それが鬼の形相の車掌。大きなハンマーをもっていて、自分の列車にホーボーが飛び乗ると問答無用でハンマーを振り下ろす。落とされたたホーボーは死ぬわけなんだけど、彼らはゴミと同じなので良心の呵責もなければ罪にも問われない。彼はいわばホーボーの天敵だよね。ある時、帝王は鬼車掌の列車に終点まで乗り切ることを誓う。そのためには鬼車掌を叩きのめさないといけない。そこで帝王と若造は共闘する。共通の敵が生まれるんだよ。メインはこの3人だけで、舞台もその列車と沿線のみ。そうなると余計なことを考えない」

第2回で取り上げるのは、あまり“コーチ”な印象のない『北国の帝王』
第2回で取り上げるのは、あまり“コーチ”な印象のない『北国の帝王』撮影/河内彩

――色恋もなければ、なぜ彼らはホーボーになったのか?みたいなドラマも一切ないですよね。

「過去は語られないけど、挫折した人間であることは間違いない。そうじゃないとホーボーにはならないから。おもしろいのは、挫折を味わい元に戻れないのなら普通、犯罪者になりそうなんだけどそうはならない。まあ、ホーボーも犯罪者といえばそうなんだけど人を傷つけてはいないじゃないの。
そういうなか、コーチである帝王の動機ははっきりしていて、いわゆる自己実現。若造はそのための道具でしかない。師弟関係でもなければ、自分の後継者にしたいなんて考えてもいない。そもそもこのオヤジは“帝王”と呼ばれることになんの価値ももってない。たまたまそう呼ばれることになっただけで、彼の頭には鬼車掌を列車からケリ落としてやるということしかない。演じているマーヴィンもめちゃくちゃシブくてかっこいい」


――どこが「コーチ映画」の定義に当てはまるんですか?

「前回話した『さよならゲーム』と違うのは、お互いがエゴイズムで結びついているところ。2人それぞれにテーマがはっきりあり、コーチしようとしているわけではないので、そのジャンルで言うとかなり異色ではある。でも、私が言うところのコーチ映画としては純化された作品で完成度は高い。師匠と弟子、それぞれが違うテーマをもっていながら、それでも成立する師弟関係があるということを描いているからおもしろいんです」

【写真を見る】無賃乗車しただけなのに…タダ乗り野郎は容赦のなく惨殺する狂気の鬼車掌
【写真を見る】無賃乗車しただけなのに…タダ乗り野郎は容赦のなく惨殺する狂気の鬼車掌[c]EVERETT/AFLO
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