押井守がつくる新ジャンル「コーチ映画」とは?メインテーマは後藤隊長の常套句「みんなで幸せになる」【押井守連載「勝手にジャンル。」第1回前編】

押井守がつくる新ジャンル「コーチ映画」とは?メインテーマは後藤隊長の常套句「みんなで幸せになる」【押井守連載「勝手にジャンル。」第1回前編】

映画を観るうえで指標の一つとなる“ジャンル”。押井守連載「勝手にジャンル。」では、押井監督が「ホラー」や「SF」など一般に周知されているジャンルではなく、独自の目線で“新しいジャンル”をつくり、さらなる映画の愉しみ方を追求していきます。

押井守新連載「勝手にジャンル。」、記念すべき最初のジャンルは「コーチ映画」!
押井守新連載「勝手にジャンル。」、記念すべき最初のジャンルは「コーチ映画」!撮影/河内彩

今回の連載では、一つの新ジャンルにつき連載3回分、代表的な作品を例に挙げつつ押井監督が解説していく形式となっています。そんな記念すべき最初のジャンルとなるのは、文字からも意味が読み取れそうな「コーチ映画」。第1回となる本稿では、マイナーリーグを舞台にした異色野球映画『さよならゲーム』(88)を取り上げ、「コーチ映画」が成立する条件から、“みんなで幸せになる”というメインテーマなどを解説する。どうやら普通の師弟モノとは違うようだが?

「偉い師匠が登場するというのは安直でわかりやすいからよく使われるパターン」

――押井さんの新連載「勝手にジャンル。」の第1回です。押井さんが“勝手に”つくった最初のジャンルは「コーチ映画」です。

「前回もこの新連載の説明をしたけど、もうちょっと付け加えたい。私が思うにいま、映画を観るという行為が放置されている。つまり、観客任せになっている。私に言わせれば、いまどきのお客さんは映画の観方がまるでわかっていない。わかっていないということは、映画の愉しみ方のごくごく片鱗しか享受していない。

いま、流行っている映画評っていいか悪いかのどっちかでしょ?一見、単純でわかりやすいとはいえ、『観客を導こう』『いい映画を教えよう』としているとは思えない。じゃあ、おもしろい映画はどうやって探すのか?いまは情報が氾濫していて個人が怠惰になり、教えてもらって当たり前になっている。美味しいラーメン屋を探す時もグルメサイトの★を数えればいい。でも、美味しくなかったらどうするのか?『金返せ』『あのサイトは嘘ばかりだ』となる。私に言わせればそういうのを参考にしたからなんだ、になる。自分の鼻を効かせる、勘を働かせる――そういう行為が受けるほうにも必要なの!それがあるかないかでラーメンも映画も文学も美術も100倍200倍すばらしい体験ができる。それができるようになれればいいという想いも込めているわけです」

いわゆる師弟モノは「コーチ映画」の条件を満たさない?(写真は『クレージーモンキー 笑拳』より)
いわゆる師弟モノは「コーチ映画」の条件を満たさない?(写真は『クレージーモンキー 笑拳』より)[c]EVERETT/AFLO

――ということは、押井さんがそういう観方を教えてくれるということで、最初にコーチ映画を選んだ理由にも重なりますね。

「そうです。で、コーチ映画と言われてどんな映画が頭に浮かぶ?」

――そう言われてすぐに思いつくのは「スター・ウォーズ」シリーズのジェダイ騎士の2人組、マスターとパダワンですが。

「まあ、単純に考えればそうなるんだけど、私がいうコーチ映画に『スター・ウォーズ』は入りません。だってヨーダはワザくらいしか教えてないでしょ?ジャッキー・チェンの『スネーキーモンキー 蛇拳』(78)や『ドランクモンキー 酔拳』(78)と似たようなもの。偉い師匠が未熟な弟子をひたすら鍛え上げ、試合や勝負に勝ちましたというのは私のコーチ映画には入りません!アクション映画にくっついているおまけですよ。自分が未熟、敵は強大。そこに偉い師匠が登場するというのは安直でわかりやすいからよく使われるパターン。ワザを教えてもらって特訓してもらい、勝負に勝利したというのでは、私のいうコーチ映画の条件を半分も満たしていません。

じゃあなにかといえば、物事には必ず“裏”がある。それを教えてくれるのが、私の言うところのコーチであり師匠です。勝負に勝つための裏ワザですよ。例えば『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(81)の時、ハリソン・フォードが刀を振り上げて襲って来た大男を銃で一蹴しちゃうでしょ?ああいうことを教えてくれるのがいいコーチです。まっとうに闘っても勝てるはずない相手なら、そういう裏ワザが役立つと教えるべき。裏表、どちらも教えるから師匠なの!ヨーダのように表しか教えてない者を、私は師匠とは呼ばない。理想だけで弟子を育てるのはコーチ映画ではない。宗教と同じですよ」

インディがめんどくさそうに拳銃で仕留める“裏ワザ”
インディがめんどくさそうに拳銃で仕留める“裏ワザ”[c]EVERETT/AFLO

――師匠と弟子の話って、とても多いですよね。とりわけアメリカ映画にはたくさんある。

「映画の一大潮流と言ってもいいくらい。なぜ多いのか?人生には先達が必要だからです。親よりも兄弟よりも友だちよりも、恋人よりも愛人よりも奥さんよりも、まず必要なのは先達。自分を導いてくれる人、教えてくれる人です。自分に同調してくれる人間はたくさんいる。友だちは基本、そうだからいっぱい欲しいと思う。同調してくれる人が多いほうが安心できるから。でも、彼らが人生を教えてくれるかとなるとかなり怪しい」


――確かにそうですね。だったら、押井さんが認めるコーチ映画の押井さんなりの条件というか定義を教えてください。

「いくつかあって、その一つは『師匠は野望をもつべし』。弟子を勝たせるという野望とは違う、自分に直結した動機。だからこそ人間は真剣になれる。そうすることで自分もなにかを実現する。『機動警察パトレイバー』の後藤がやっているようなことだよね。相手の計画も自分の計画も成功させる。だから彼はいつも、『みんな一緒に幸せになろう』と言っているじゃない。

この後藤の常套句『みんなで幸せになる』は、コーチ映画のメインのキャッチフレーズ。いや、メインテーマと言ってもいいかな。それがいかに困難かを描くから、ちゃんとドラマにもなるしおもしろい映画にもなる。相手を利用することはできる。でも、それを自分の幸せにつなげるのは難しいからですよ」

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