A24史上最年少にして最高のヒットを記録!『バックルームズ』ケイン・パーソンズ監督が語る、「人と外の世界との関係を問い直す」物語
「いつの時代も“アイデアの戦い”なのは同じであって、新しい技術がそのプロセスを加速させているだけ」
保守的とされてきたハリウッドが、パーソンズ監督や『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(22)のフィリッポウ兄弟、『オブセッション 災愛』(公開中)のカリー・バーカーのようなYouTube出身の監督たちを積極的に迎え入れていることについて、当事者としての見解を求めた。「自分は“内側”にいる立場ですが、それでもまだどこか“外側”にいる感覚があります。この現象自体がまだ新しいので、駆動している仕組みについて確信を持って語るのは控えたいところですが」と前置きしつつ、パーソンズ監督は次のように分析する。「ほぼ自明な事実として言えるのは、インターネットと共に育った若い世代が、YouTubeを自分のプロジェクトを発表する手段として使っているということです。40年前なら別の経路をたどっていたであろう人たちが、人生を処理しようとする方法自体は同じなのに、出口だけが変わり、観客に直接届くようになった。それによって、特定のアイデアやイメージがどれくらい効果的かを“実地テスト”できるようになり、製作側からしても、なにが伸びているのかを見極めやすくなっています。最初の短編を出したとき、公開から1週間半ほどで、まだ2000万回再生にも届いていない段階で、すでに反響の兆しが立ちのぼりました。結局はいつの時代も同じ“アイデアの戦い”であって、新しい技術がそのプロセスを加速させているだけだと思います」。
同じくYouTube出身監督による低予算作品でありながら、2026年のハリウッドを揺るがした大事件として、しばしば比較されるのが公開中の映画『オブセッション 災愛』だ。 「(2本の作品に)共通点があるとすれば、それはおそらく作品そのものというより、それぞれがどう作られたかという文脈から来るものだと思います。似た映画だとは思っていません。どちらも低予算ではありますが、それでも『オブセッション 災愛』は『バックルームズ』よりさらに小規模です。僕の映画はだいたい1000万ドルほどでしたが、あちらは75万ドルくらいだったはずです。桁が違うので、アプローチもかなり異なっていたはずです。ふたつのYouTube出身、Z世代の監督という物語がリンクして語られる理由は理解できますし、それがちょうど“いま”というタイミングと噛み合っているのでしょう。『オブセッション 災愛』自体はすばらしい映画だと思っています。映画館で本当にオリジナルな作品に飢えている人たちの、微妙な感覚を捉えていると思いました。ただ、両作品を結びつける決定的な要因がひとつだけあるかと言われると、まだ自分のなかでも見つけられていません」。
「すべての登場人物は同じ“空虚”の周りを回りながら、なんとか “答え”を引き出そうとしている」
作品が扱う記憶や喪失、トラウマといったテーマについて、それが監督自身にとって個人的な意味を持つのか、また制作がカタルシスになったのかを問われると、パーソンズ監督はこう答えた。「この作品が自分にとって何だったのか、あまり明確に定義したくないんです。自分なりの解釈はありますが、それは自分のなかにとどめておきたい。“トラウマ映画”と呼ばれることには抵抗があります。そもそもそれを意図して作ってはいませんし、最近はいろいろな作品がそのラベルで括られがちですが」。パーソンズ監督にとって本作は、むしろ社会や文化といった抽象的なシステムのなかで、個人が言い訳をしながら生きていく様を処理する手段だったという。「そうしたシステムに関わる大きなアイデアの多くは、メアリーとクラークが劇中で手掛けている仕事――彼らが作っているコマーシャルや、それが90年代のアメリカ文化のなかで彼らの経済的な立ち位置について語っていること――に表れています。マーク・デュプラス演じるキャラクターに至るまで、すべての登場人物が同じ“空虚”の周りを回りながら、本質的には答えの出ない無限の特異点から、なんとか答えを引き出そうとしています。答えは出ません。それでも彼らは試み、それぞれのやり方でそれと折り合いをつけたり、そこから抜け出して自分にとって生産的な人生へ飛び出したりする。つまりこれは、私たちが自分の属するシステムになにを差し出し、なにを諦めているのかについての瞑想なんです」。
次になにを手掛けるのかと問われると、パーソンズ監督は含みを持たせながらもこう締め括った。「いくつかのプロジェクトにまたがって、仮想的な構想はたくさんあります。ただいま、優先順位のトップに来ているのは、『バックルームズ』で経験した長編映画のパイプラインについて、もっと理解を深めることです。それに、YouTubeでの活動がなくなることはないと思います。おそらく今後も、実験的なテストの場として使い続けるでしょう」。
YouTubeという場から始まったパーソンズ監督の旅は、A24製作の映画という舞台で新たな一章を迎えた。次にどんな枝が伸びていくのか、その動向から目が離せない。
取材・文/平井伊都子

