笠井信輔アナが見出した、リドリー・スコット最新作『ラスト・サバイバー』に見え隠れする『風の谷のナウシカ』
草刈正雄の『復活の日』や宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』を連想させる
本作を観る前のヒントは、ポスタービジュアルにもある。
荒廃したビル群の前には、主演のジェイコブ・エロルディ。Netflix映画『フランケンシュタイン』(25)で怪物を演じ、第98回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたあの俳優だ。特殊メイクをしないとこんなにかっこいい(笑)。
で、彼の顔をそのまま草刈正雄に替えてみてほしい。
もう、まんま日本の伝説的SF映画『復活の日』(80)のポスターとして使えるじゃないか(笑)!
本作の舞台は、謎のパンデミックで人類の大半が死滅した終末世界。『復活の日』と極めて似ているのだ。
格差社会を反映し、富める者とそうでない者がそれぞれの方法で生き残りを図る世界(本作のおもしろさはここにある!)の中で、主人公のパイロット(エロルディ)が愛犬ジャスパーと共に生き延びる姿を描いていく。
原作は世界的なベストセラー小説だが、日本ではあまりなじみがないので、邦題を『ラスト・サバイバー』と変更したのは良い判断だろう。
実は、2015年に刊行された原作小説の日本語版タイトルも、「THE DOG STARS」から大きく変更されていた。
日本語版は「いつかぼくが帰る場所」。
ちょっと、“ぼく”って、まんま『復活の日』の草刈正雄のコトじゃないか!?(笑)
そんなふうに、原作タイトルやポスターから『復活の日』との符号を楽しむことができる本作だが、映画鑑賞中、私の意識は別のところに飛んだ。
この作品の大いなる魅力は、本作の“もう一人”の主役ともいえる“セスナ機”の飛行シーンと、大自然の織りなす圧倒的な映像美にあるからだ。
とにかく、美しい。本作の日本最速試写がIMAXで行われたのも納得がいく。
その映像美に感心しながら、私はずっと宮崎駿監督と『風の谷のナウシカ』(84)のことを想起していた。
『風の谷のナウシカ』も、まごうことなきディストピア・ムービー。戦争(火の七日間)によって文明が滅びた後の世界を描くが、なぜあのアニメが美しい希望として記憶に残るのか?
それは、毒気を吐き出すため人間が入れない“腐海”に、美しい自然が再生していたからといえるだろう。
一方、本作も人間がいなくなり、そのため緑が美しく映えている。
そこを自由に飛び回る黄色いセスナがこれまた美しい。スコット監督は今回、飛行シーンに相当力を入れて撮影している。発着陸のシーンにも時間をかけ、あらゆる角度から観る者に浮遊感のすばらしさを与えてくれる。本作は、飛行シーンにこだわり続ける宮崎監督に通じているのだ。
そう考えると、ジェイコブ・エロルディは草刈正雄ではなく、メーヴェからセスナに乗り換えたナウシカに見えてくる。偶然だろうが、ジャスパーとテト、主人公の相棒が共に動物であるところも一緒。
さらに言えば、騒乱から逃れて自給自足の暮らしを穏やかに続ける集落のありようや、ファッション、子どもたちの姿、主人公との関係が、“風の谷の住民”と完全に重なった。
これはどういうことなのか?
実は、宮崎駿(85歳)、リドリー・スコット(88歳)。ともに80歳を超える二人の間をつなぐのは、高齢の現役監督という立場だけではない。
国も作風もジャンルも異なる二人は、ともにフランスの漫画家・画家であるメビウスから大きな刺激を受けてきたのだ。
スコット監督はメビウスを非常に高く評価。『エイリアン』ではメビウス本人をデザインスタッフに招き、『ブレードランナー』ではメビウスも参加していたSFコミック誌に影響を受けたという。
一方、宮崎監督も『風の谷のナウシカ』をメビウスの影響下で作ったと語っている。メビウスの広大な空間表現や、人物と巨大な風景・飛行物体を組み合わせる感覚は、まさに宮崎監督の世界と符合するのだ。
そう考えると、この新作で、同じようにメビウスから影響を受けてきたスコット監督が希望を感じさせるディストピアを描くとき、その表現方法がナウシカの世界観に近づくことも、ありうるだろう。
スコット監督は、これまで宮崎監督やジブリ映画に直接言及したことはないようだが、ともに80代。同世代のクリエイターであるがゆえに、同時代の芸術・文化の影響を受けながら歩んできた結果なのかもしれない。
本作は確かに、全編を通じたサバイバル・アクション・ムービーとは言い難い。「もっとアクションが観たかった」という向きもあるだろう。
しかし、監督はそれ以上に、豊かな終末世界の人間模様を、絶望の中の希望を描きたかったに違いない。
とは言っても、やはりリドリー・スコット。
詩的で美しい文体の原作だけでは映画にはならないと、激しく容赦ないアクションシーンを盛り込み、緩急をつけるところなどは、アクション映画監督として生きてきた証。
88歳になっても衰え知らずのやんちゃなところは健在なのだ。
文/笠井信輔(フリーアナウンサー)
※宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記
