「告白-25年目の秘密-」と『白鳥とコウモリ』で見比べたい松村北斗――“普通”に奥行きを与える稀有な表現力
ベストセラー作家、東野圭吾によるシリーズ累計発行部数195万部突破の同名小説を、松村北斗と今田美桜のW主演で映画化した『白鳥とコウモリ』(公開中)。『あゝ、荒野 前篇/後編』(17)、『正欲』(23)で知られる岸善幸監督がメガホンをとった本作で、松村は突然“容疑者の息子”となったごく普通の青年を演じている。
そしていま、松村のもう1つの出演作で話題になっているのが、現在放送中の主演ドラマ「告白-25年目の秘密-」における“25年間初恋をつらぬく”青年役だ。一方は父の事件によって平穏な日常を奪われ、もう一方は一途すぎる片想いで時として常識のボーダーラインを踏み越えていく。傍目から見ればどちらも見た目は“普通の青年”でありながら、物語が進むにつれてそれぞれ違う顔が見えてくる。その変化をまったく異なる表情で演じ分ける松村の姿が興味深い。そこで今回、この2つの役を通した松村の表現力の幅広さに迫ってみたい。
“容疑者の息子”となった青年の戸惑いを自然体で表現
『白鳥とコウモリ』で松村が演じる倉木和真の運命を一変させるのが、善良な弁護士の白石健介(中村芝翫)の刺殺事件だ。和真の父である倉木達郎(三浦友和)の自供によって事件は解決したかに思われたが、和真は供述から浮かび上がる父親像に小さな違和感を抱く。一方、被害者の娘である白石美令(今田)もまた父の死に疑問を感じていた。やがて本来なら交わるはずのない容疑者の息子と被害者の娘は、それぞれの父になにが起きたのかを知るため、“禁断のバディ”として事件の真相を追い始める。
和真という人物を印象づけるのは、犯罪とは無縁の人生を歩んできた、まっすぐな好青年像だ。都内の広告代理店に勤める人気者で、会社では将来を期待される人材として順風満帆な日々を送っていた。だからこそ、父が殺人事件の犯人だと自供しても、その尋常ではない状況をうまくのみ込むことができず、どこか他人事のような態度を取ってしまう。そんななか、自身の不用意な発言をきっかけに激しいバッシングを浴び、“容疑者家族”になったことを自覚し、日常も大きく崩れていくことに。
そんな和真の変化を繊細な演技でたどっていった松村。柄本佑扮する警視庁捜査一課の刑事と接した際の警戒感の薄さや、スクープをねらう週刊誌記者の誘導的な質問に深く考えず答えてしまう脇の甘さ、さらには被害者の娘である美令の気迫に背中を押される姿など。次々と降りかかる出来事に戸惑いながら、しだいに自分が向き合うべきものへとフォーカスが定まっていく。その心の過程を丁寧に表現した松村の“受けの演技”の巧みさが印象的だ。
そして、そんな和真を真実へと向かわせる根底にあるのが、父への思いだ。松村自身も和真について、「父に対して“特別な感情”を抱いている人物」だと語り、「心から平和に生きてほしいと願っていた父を疑わなければならないつらさを表現することが、演じるうえで大切だった」と述懐している。
そのような父への複雑な思いが鮮明に表れるのが、喫茶店で美令と互いの父について語り合う場面だろう。それまで胸の内に押し込めていた感情がふいにあふれ出す。岸監督によると、このシーンの2人にはよりエモーショナルな芝居を求めたといい、それまで感情を大きく表に出してこなかったからこそ、この瞬間に露わになる和真の感情のうねりが強く胸を打つ。抑制された芝居から感情があふれ出す瞬間に至るまで、そこに息づくのは“普通の青年”としてのリアリティで、そんな松村の自然体の演技にも注目してほしい。
