“狩られる側”から“狩る側へ”『ゼイ・ウィル・キル・ユー』へとつながるヒロイン逆襲型ムービーの変遷を辿る
ジャンルを横断する広がりを見せてきた近年の映画たち
そのあとも、男子高校生たちの悪趣味な遊びのターゲットとなった女性が、実は彼らを懲らしめる殺し屋だったという『ファイナルガール』(14)といった作品が作られた。その一方、近年では性的描写がエンタメとして消費されることへの批判や意識の高まりもあり、反撃の対象が個人の男性から、伝統や権力といったより大きなものへと移っていく傾向も見られる。そうした変化は社会風刺的な側面を帯びながら、ジャンルを横断し広がっている。
例えば『レディ・オア・ノット』(19)。格式あるル・ドマス家に嫁いだ花嫁のグレース(サマラ・ウィーヴィング)が、家族が増えたらゲームを行うという一家の伝統に従い、“かくれんぼ”の隠れる側となるが、それは単なる遊びではなく一族に伝わる恐ろしい儀式で…という内容だ。
一族全員から命をねらわれ、初めは戸惑っていたものの、ついにブチギレて一家を返り討ちにしていくグレースの覚醒をゴア描写満載で描く本作。そこに呪いを信じる一族のオカルト的雰囲気や、結婚だけが幸せではないという生き方に対するメッセージなど、多彩な魅力が詰まっている。
また、セレブによる人間狩りの獲物となったターゲットの女性が軍人時代のスキルを駆使して返り討ちにしていく『ザ・ハント』(20)は、ホラーやアクション的なおもしろさと同時に、リベラルと保守の分断に対する批判のまなざしも込められていた。
最新型となる『ゼイ・ウィル・キル・ユー』が描くものは?
そうした流れを汲んだ最新作が、キリル・ソコロフ監督による『ゼイ・ウィル・キル・ユー』だ。ニューヨークの一等地に建つ超高級マンション、バージルにメイドとして雇われた主人公のエイジア(ザジ・ビーツ)。しかし、バージルは悪魔を崇拝するセレブの巣窟で、生け贄として命をねらわれるエイジアは刑務所仕込みの戦闘スキルでマンションからの脱出を試みる。
抜群の戦闘力を誇るエイジアがもたらす血まみれのアクションをメインに、そこに『ローズマリーの赤ちゃん』(68)に着想を得たという悪魔崇拝や『キル・ビル』(03)を思わせる章立ての構成、『死亡遊戯』(78)、『ザ・レイド』(11)などを彷彿とさせる各階を攻略していくスタイルなど、様々なエッセンスがない混ぜになっている。
主人公の反撃がすでに予告でもフィーチャーされているように、逆転劇自体はもはや本作のサプライズでないが、そのあと次々と訪れる思いもよらぬ展開が驚きを与えてくれる。
『ゼイ・ウィル・キル・ユー』を、ぜひ劇場でチェックしてみてほしい。
文/武藤龍太郎

