佐藤二朗が原作・脚本・主演を務めた渾身の一作『名無し』で描いた“負”を抱えた者への眼差し「当たり前や既成概念に冷や水をかけたい」

佐藤二朗が原作・脚本・主演を務めた渾身の一作『名無し』で描いた“負”を抱えた者への眼差し「当たり前や既成概念に冷や水をかけたい」

「MEGUMIちゃんが『邦画史上最も不細工で汚いラブシーンにしようよ』って言ってくれた」

花子の存在が山田の唯一の拠り所だったが…
花子の存在が山田の唯一の拠り所だったが…[c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会

佐藤が語るように、彼がこれまで産み落としてきた主人公たちはちょっとしたことで救われ、前を向くようになるが、本作の山田はそれに当てはまるキャラクターではない。

「いままで僕が書いてきたのは(世の中や他人と)繋がることを諦めなかった人たちですけど、今回は繋がることを諦めた主人公ですからね。そこが決定的な違いです。でも、本作も理不尽なことに一矢報いたいという思いで書いたんです。さっき話したように、お客さんに明るく帰っていただく映画もいいけれど、『こんなことがあってはいかん!』ということを提示する映画も必要だと僕は個人的に思っていますから。そのときに、本当に目を背けたくなるような残酷な描写がないと、そう心から思えない気がしていて。それを描くのも、映画のひとつの役割だと信じているんです」。

刑事の国枝は執念深く山田を追う
刑事の国枝は執念深く山田を追う[c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会

幼少期の“名無し”に「山田太郎」という名前をつけてやる交番の巡査・照夫に扮した丸山隆平、山田と幼いころから行動を共にし、彼の右手の秘密を知る謎の女性・花子を体現したMEGUMI、異常な執念で山田を追う刑事・国枝を演じた佐々木蔵之介。佐藤の熱い思いに共鳴し、この世界に足を踏み入れた彼らが“名無し”のドラマをより深く、考えさせるものにしている。

「蔵之介さんとは20代のころから舞台やドラマで何度か共演させてもらっていて、山田と合わせ鏡になるような国枝を同年代の蔵之介さんで見たかったから、なんとしても口説き落としたかった。なので、長文のラブコールを書いてプロデューサーから送ってもらったし、『もっと話を聞きたいなら、いつでもどこにでも言って話します』というメールを送ったんですよ。そしたら、プロデューサー伝いに『二朗とは一緒にやりたかったからお引き受けしますわ』といううれしい返事が返ってきた。丸山くんとはクランクイン前にちょっと会っただけで、一緒に芝居をするシーンはなかったけれど、完成した映画を観た時に彼がこの作品にのめり込んでくれているのがわかった。

20代のころからの“同志”である佐々木蔵之介との共演を喜ぶ佐藤二朗
20代のころからの“同志”である佐々木蔵之介との共演を喜ぶ佐藤二朗撮影/河内彩 ヘアメイク/今野 亜季(A.m Lab) スタイリング/鬼塚美代子(Ange)

それこそ、MEGUMIちゃんなんて待機していたロケバスで『二朗さん、邦画史上最も不細工で汚いラブシーンにしようよ』って言ってくれたから、『この世界観を深く理解してる!』と思いました。右手を隠すように退く山田を花子が誘うあの野獣同士の、哺乳類が交わるような画(え)を撮ることができた。この3人には本当に感謝の言葉しかないですね」。


取材・文/イソガイマサト

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