「俳優人生が変わった」山時聡真&菅野美穂が『90メートル』で向き合った親子愛

「俳優人生が変わった」山時聡真&菅野美穂が『90メートル』で向き合った親子愛


──山時さんが役作りの準備の過程で初めて知ったこと、印象に残ったことは?

山時「僕は監督からヤングケアラーを題材にした漫画をいただいたんです。それまでは佑のように家族の介護や家事を担っている子どもは、我慢する気持ちが強いのかなと思っていたんですが、そうではなくて、彼らにとっては、それが日常の一つなんですよね。だから自分の将来を最優先には考えない、そういった意識の違いを感じました。トイレ介助の練習もそうです。やっぱり親子であっても異性なので、『トイレに連れて行って』と言う側も、介助する側もお互いに恥ずかしい。身体を思うように動かせないのだから当たり前のことなのかもしれないけれど、ここまでサポートするんだという驚きはありました」

菅野「トイレすらも夜中に息子を起こして手伝ってもらわないといけない、というところで美咲さんも限界まで我慢している。それで、介助してもらった時は息子に『さんきゅー』っていう言い方をするんですよね。本来なら『ありがとう』って言わなきゃいけないんだけど、そこまで素直になれない心情があると監督が仰っていて。基本的にはお互いに想い合っている親子なんですけど、そういう複雑な気持ちの部分は丁寧に演じられたらいいなと思っていました」

佑は、母の介護でバスケ部を辞めざるを得なくなる
佑は、母の介護でバスケ部を辞めざるを得なくなる[c]2026映画『90メートル』製作委員会

山時「この現状に対して感情を押し殺してしまう部分と、思春期ならではの恥ずかしさゆえに感情を出さない部分。その2つのパターンが混在するようなシーンがたくさんありました。セリフにはないけれど、表情には出るというお芝居が難しかったです。あとはプロではない、息子としての介護のリアリティさをどう出すか。そこは実際のヘルパーのみなさんと一緒に介護練習を重ねながら、すごく意識した部分です」

「初めて『ありがとね』というシーンは、深く感じるものがありました」(菅野)

──お2人が好きなシーンはどこですか?

菅野「息子に対する感謝の気持ちはありつつも、ちょっと卑屈になって、素直にありがとうと言えなかった美咲さんが、佑の気持ちを受け取って、初めて『ありがとね』って言うシーンですね。その言葉を佑が背中で受け止めてくれる。そのシーンで2人の目線は合わないんですけど、現場での山時さんの様を見ているだけで深く感じるものがありました」

山時「僕は佑が作ったカレーをお母さんと一緒に食べるシーン。回想シーンと現在のシーンと2回あるんですが。現在のシーンでは、佑はカレー作りも慣れていて、当たり前に食卓に出して、お母さんが水を飲もうとする気配を感じたら、何も見ずにコップをさっと寄せてあげる。それでお母さんに『さんきゅー』と返される。そのやりとりにすべてが詰まっていたような気がします。あと、そのシーンで佑は携帯を見ながら食べているんです。ふつうなら行儀が悪いことなのかもしれないけれど、食事中に会話をすると、お母さんに誤嚥の危険があるから、そういうことも考えた上での行動なんだろうなと、佑の思いやりを感じました。2人が理解し合っているという感覚があって、すごく好きなシーンです」

──菅野さんは監督やプロデューサー陣に「お母さんとのエピソードを教えてほしい」と質問されたとのことですが、みなさんのお話から得たものは?

幼少期の佑と、病気になる前の元気な美咲
幼少期の佑と、病気になる前の元気な美咲[c]2026映画『90メートル』製作委員会

菅野「みなさんのお母さまへの想いを聞いて、あぁ、素敵だなぁと思うことばっかりで。自分がいま、子育てしている状況を考えると、将来そんなふうに言ってもらえないだろうなぁって、自分との違いをはっきり認識したんですけど(笑)。でもやっぱりお母さんって、子どもにとっての安心を作ってあげられる存在で、この子にとってはなにが大切なのかが世界で一番わかる人、それはみなさん同じなんだなと感じました。だから美咲さんの役でも、息子にとって世界で一番の味方みたいになれたらいいなと思っていました」

「感謝を言葉や行動で伝えられる息子でありたい」(山時)

──本作への出演を通して、“母”への想いに変化はありましたか?

菅野「自分はつくづく至らない母親だなぁって。私は明るいし、楽観的なタイプなので、『大丈夫!大丈夫!』みたいな感じで子育てできるのかなと思っていたんですけど、いざ母親になってみたら、そうではなかったんです。だからその時々で、できることをやっていくしかないという感じです。

美咲さんのような母親もすごいなぁと思うし、やっぱり自分の母親のすごさというのも改めて感じましたね。子どものころは自分の母親がすごいなんて思わないじゃないですか。大人になったいまだから、そのありがたさが分かる。私の母は私が興味を持ったことをやらせてくれる人で、『こうしなさい』とか『ああしなさい』とかいっさい言わない人だったんですよ。それはすごくよかったと思うから、自分の子どもにもそうしてあげられたらいいなと。やりたいことを自分で選ばせてあげたいと思います」

山時「実際、母には甘えてしまうんですよね。でもそのなかで、いつもどれだけ愛されているかということに気づいて、感謝の想いを言葉や行動で伝えられる息子でありたいなとは思っています。結局いつも恥ずかしくて言えなかったりするんですけど…」

菅野「ここで言ったら、お母さん、読んでくれるよ(笑)」

山時「恥ずかしいですね(笑)。でも、最近成人式があって。そういうタイミングで、ちょっと伝えられたりもしました。これからもその気持ちは忘れないでおこうと思っています!」


取材・文/石塚圭子

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