理不尽に人々が死んでいく…“新しい恐怖”に挑んだ『災 劇場版』関友太郎監督&平瀬謙太朗監督インタビュー
「大きな悲しみや喪失に触れないと日常の愛おしさに気づけない」(関)
本作は2025年9月に行われた第73回サン・セバスティアン国際映画祭コンペティション部門に正式招待され、1800席以上の会場は満員に。日本に先駆けてワールドプレミアが行われた。現地の記者会見では、『宮松と山下』でも組み、実験性と冒険心に富んだ彼らの作家性を称える日枝広道プロデューサーが締め括りに、「2人の創作の起点に、何か発したいメッセージや伝えたい物語があるわけではない。けれども新しい手法を以ってテーマを浮き上がらせるという独自のアプローチで世界を席巻するだろう」とコメントした。
関「たしかに、僕たちはいつもテーマを見つけるのが後からなんです。この映画を作りながら自分が考えるようになったことは、メメント・モリ…“死を忘れるな”ということです。例えば、家族で食卓を囲めるその時間って、『幸いにも家族皆が不幸に遭わずに済んでいる結果』なわけですよね。僕はバスケットが好きなのですが、2020年に元NBAのスター、コービー・ブライアントがヘリコプター事故で墜落死したとき、こんなふうに人生が終わってしまうことがあっていいのかと、ひどくショックを受けました。そして途端に、今何事もなく生きている日常が愛おしくなった。それくらい大きな悲しみや喪失に触れないと、今自分が築いている生活の尊さがわからないなんて…と、情けなくもなります。『災』では直接、幸福について言及してはいませんが、どうして死を扱いたいのかといえば、そういった死生観があるからだと自己認識しています」
平瀬「僕も映画には軸となる主題は必要だと思っていて、きちんと語るべきだと。ただし内面から来るテーマ性が最初からあるわけではない。つくっていくうちに色々と出て来るんです。それは毎回ですね。記者会見で日枝さんがおっしゃった趣旨は、僕らにとっての共通の、是が非でも描きたいテーマを指しているのかも。ひとりひとり別につくったら、各々の主張を込めるでしょうけど、2人でやる場合、『自分の経験を映画にしたい』とか『子どもの頃のあの思い出を入れたい』だとかは全くないんです。それだときっと上手くはいかないので。その目的を持ち、ヴィジョンに向けて最善な選択肢を常に議論していく。そういう意味においては、日枝さんの発言は正しい気がします」
ところで香川照之は、『蛇の道』(98)、『トウキョウソナタ』(08)、『贖罪』(12)、『クリーピー 偽りの隣人』(16)と、黒沢清組の一員でもある。おそらく海外では“黒沢映画のフォロワー”と受け取られているのではないか。
平瀬「いえ。意外にも日本のほうが黒沢監督の名前は上がりますね」
関「もちろん黒沢さんの映画は数多観ていますし、好きなんですが、この『災』では何かを参考にしたシーンはないんです。だから、不思議なんですよ。本当によく言われるので」
平瀬「香川さんも口にされていたよね」
関「そうそう。『これは黒沢だなあ』なんて撮影現場でモニターを見ながら」
2人の嗜好が気になる。平瀬は「アニメーション(の影響)は大きい」と述べ、関は「僕はあまり観ません」と言う。
平瀬「ベン図で言うと、僕らの映画の趣味が重なっている監督はヨルゴス・ランティモスと…」
関「スタンリー・キューブリックと…以上(笑)」
平瀬「少なっ(笑)」
関「そんなことはないか。日本映画で言えば、香川さんも出演されていた西川美和監督の『ゆれる』とか」
平瀬「『災』に近い感触ではそうだね。あとはポール・トーマス・アンダーソン監督も外せないか」
関「ダルデンヌ兄弟とかハネケとか、ヨーロッパ系はもっぱら僕の守備範囲で」
平瀬「僕はジャンルとしてSFも大好物だし、SFマインドを持つドゥニ・ヴィルヌーヴやクリストファー・ノーランもめちゃくちゃ観てます。2人の作品は編集、見せ方の構造具合に惹かれるんですね。映画の特性のひとつはリニアに進んでいくメディアであり、Aの情報のあとにBを出すか、その逆にするか情報を繰り出す順番、モンタージュの塩梅によって意味や肌合いが変わってくるところが醍醐味なんです」
なるほど実際、各被害者を主人公に組み立てて、時系列だった『災』の連ドラ版を、映画では同じ物語だが日本各地、同時多発的に編集し直し、“構造”を刷新してみせている。2人の共同作業は基本、ディスカッションを経て、関が脚本を書き、さらに議論。撮影も編集も実務は主に関が司り、別角度から平瀬がチェックしてゆくものだったという。驚くのは劇場版は脚本の書き足しも再撮もなく、全6話分の映像素材に対してのアプローチだけなのであった。
平瀬「それでいて、ダイジェスト版には絶対したくはなかったんです」
関「ロードマップがない状態での編集作業で、序盤は暗中模索というか、かなり悩みました。自信がなさすぎて、繋いで『これはダメかも…』と嘆いたら、『いや面白い面白い』と平瀬くんが言ってくれ、それでまた直しても『ちょっとよくわからないな…』と思っていると、また平瀬くんが『面白い面白い!』と(笑)。マラソン選手に同行して鼓舞をする、モチベーターみたいになってて」
平瀬「同じ物語なのにドラマと映画とでは料理の仕方が違っていて。それぞれの恐怖が生まれ、僕たちが目指していることに近づいていました。だから『大丈夫』と言ったんです。この見せ方の構造が新しくて面白いんだって」

