大人気YouTuberが監督・主演・製作・配給した血みどろSFホラー『Iron Lung』が北米大ヒットするまでの驚異の軌跡!

大人気YouTuberが監督・主演・製作・配給した血みどろSFホラー『Iron Lung』が北米大ヒットするまでの驚異の軌跡!

先週末北米で公開され、サム・ライミ監督による製作費4000万ドルの新作メジャー作品『HELP/復讐島』(公開中)とデッドヒートを繰り広げ、初登場2位のヒットを記録した超低予算のSFホラー映画『Iron Lung(原題)』(26)。2022年に発売された同名のインディホラー・ゲームをベースにした作品だが、大人気YouTuberのマーク・フィシュバック(マークプライヤー)の長編監督デビュー作である本作が画期的なのは、フィシュバックが監督のみならず脚本も執筆し、主演を務め、編集と製作総指揮も担当し自身で製作費を集め、宣伝費をかけず、自分たちで配給して大勝利を収めたことだろう。

【写真を見る】大人気YouTuberのマーク・フィシュバックが監督・主演・製作・配給を手掛けたホラー『Iron Lung』
【写真を見る】大人気YouTuberのマーク・フィシュバックが監督・主演・製作・配給を手掛けたホラー『Iron Lung』[c]Markiplier Courtesy Everett Collection

フィシュバックは1989年6月28日にハワイ・ホノルルで生まれ、生後間もなく家族と共にアメリカのオハイオ州に移住した。父親はドイツ系アメリカ人で、母親は韓国人。母方の祖父は北朝鮮からの脱北者で、彼の家族と自身のルーツについてはフィシュバックが監督したドキュメンタリー映画『Markipiler from North Korea(原題)』(22)で見ることができる。マークプライヤーの名前で2012年からYouTuberとして活躍し、主にインディー・ホラーゲームの配信が人気を呼び、彼のチャンネル「Markiplier」の登録者数はなんと、現時点で3820万人。2022年にはフォーブスが選ぶ「YouTubeで最も稼いだコンテンツクリエーター」で3位に選出され、ストリーミー賞やゴールデン・ジョイスティック賞にも輝いた。

『Iron Lung』の製作は2023年4月21日に公式発表され、同日ティーザートレイラーが公開されたが、撮影は同年2月から3月にかけて、テキサス州オースティンのロバート・ロドリゲスが所有する「トラブルメイカー・スタジオ」で行われた。SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)のストライキの影響で映画の完成は遅れたが、2024年6月についに完成。2025年12月5日に、北米公開日が入った予告編がドロップされた。当初は全米60館での公開予定だったが、フィシュバックは自身のファンたちに、近くの映画館に上映をリクエストするよう呼びかけ、口コミによるこの草の根運動は全米中に広がり、AMCやリーガルといったメジャーなシネコンチェーンを含む多くの映画館を動かす結果となった。

デヴィッド・シマンスキが制作した同名のインディ・ホラーゲームを映画化
デヴィッド・シマンスキが制作した同名のインディ・ホラーゲームを映画化[c]Markiplier Courtesy Everett Collection

『Iron Lung』は北米で1月30日になんと3015館で封切られ、週末3日間で1780万ドルを稼ぎ出し、初登場2位に輝いた。製作費は300万ドル以下。大手配給会社を通さず自ら配給をし(配給会社はMarkiplier)、宣伝費はゼロ(大人気YouTuberだからできる芸当)という、ハリウッドのセオリーを無視した破天荒な独自のスタイルで大成功を勝ち取ったのだ。イギリスやドイツ、オーストラリアなど世界各国で同日に公開され、世界興行収入は3日間ですでに2000万ドルを超えている。

映画のストーリーだが、ポスト・アポカリプスな遠い未来が舞台。クワイエット・ラプチャーという未曾有の出来事で、人類の多くとすべての恒星系と星が突如として消失。サイモンという名の囚人(演じるはフィシュバック)は、AT-5と呼ばれる荒廃した月の血の海を「アイアン・ラング」という名の潜水艦で航海し、探索するというミッションを達成したら、見事自由の身になれると言われるが、もちろん血まみれの決死の航海になるのであった。撮影ではサム・ライミ製作、フェデ・アルバレス監督の『死霊のはらわた』(13)の19万リットルを大きく上回る、30万リットルの血のりを使用したという。上映時間は125分。

主人公の囚人サイモンが、自由を求めて血の海を航海する
主人公の囚人サイモンが、自由を求めて血の海を航海する[c]Markiplier Courtesy Everett Collection

キャストは、声優のトロイ・ベイカー(「LEGOマーベル/アベンジャーズ ストレンジ・テイルズ」)やエル・ラモント(『アリータ:バトル・エンジェル』(19)、『マーシー・ブラック』(20))が出演。オリジナル・ゲームのクリエーター、デヴィッド・シマンスキもカメオ出演している。ビデオゲーム音楽の作曲家、アンドリュー・ハルシュルトがスコアを担当。『Iron Lung』というタイトルはしかし、レディオヘッドの楽曲「My Iron Lung」にインスパイアされたのだろうか?日本公開はいまのところ未定だが、この大ヒットを受けて配給を検討する会社も出てくるだろう。

近年、YouTuberから映画監督に転身するケースが目立っており、『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』(22)や『Bring Her Back(原題)』(25)のフィリッポウ兄弟、『シェルビー・オークス』(24)のクリス・スタックマンなど特にジャンル映画に多いが、人気の動画クリエーターが映画監督としてヒット作を放つことも、今後さらに増えるかもしれない。


文/小林真里

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