リチャード・リンクレイター監督にインタビュー。映画史における“不滅の潮流”『ヌーヴェルヴァーグ』を撮る意義

リチャード・リンクレイター監督にインタビュー。映画史における“不滅の潮流”『ヌーヴェルヴァーグ』を撮る意義

昨年5月、第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアを迎えたリチャード・リンクレイター監督の最新作『ヌーヴェルヴァーグ』が、2026年7月に日本でも劇場公開されることが決定した。ジャン=リュック・ゴダールの不朽の名作『勝手にしやがれ』(60)の制作過程を描いた本作は、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(95)、『6才のボクが、大人になるまで。』(14)、『ヒットマン』(23)、そしてイーサン・ホークが初のアカデミー賞主演男優賞ノミネートされた現在公開中の『ブルームーン』まで、様々なジャンルにまたがる名作を監督してきた。

監督を務めたリチャード・リンクレイター
監督を務めたリチャード・リンクレイター[c]Everett CollectionAFLO

リンクレイター自身が10年以上温めてきた企画だという『ヌーヴェルヴァーグ』は、全編フランス語とモノクロ映像で、映画に憧れ、夢を見た1959年の若者たちの肖像を切り取っている。映画祭の地で、監督とキャストに直接インタビューを行った。

リンクレイター監督は、この企画の原点について「13年前、仲間たちとこの映画について話し始めました。私たちはテキサス州オースティンに集う映画狂で、『勝手にしやがれ』などが作られたこの時代を愛していました。映画制作における自由さと、個人的な映画を作るという概念を表現していたからです」と語る。

「『映画を作るべきだ』と確信させてくれた人々へのラブレターです」(リンクレイター監督)

ジャン=リュック・ゴダールの長編デビュー作『勝手にしやがれ』ポスター
ジャン=リュック・ゴダールの長編デビュー作『勝手にしやがれ』ポスター[c]Everett CollectionAFLO

リンクレイターとゴダールの出会いは21歳の時。父親と一緒にテキサス州ヒューストンのライス大学で行われた上映会で『勝手にしやがれ』を鑑賞したが、初見ではよく理解できなかったという。好奇心旺盛な父親もゴダールを知らなかったが、映画に興味を持っているらしい息子との会話の糸口として、この映画上映会を選んだまでだった。「数か月後に再び観て、本を読んで、やっと理解できたような気がしました。その後、ほかのヌーヴェルヴァーグ作品をすべて観ました。1985年に始めたオースティン映画協会(映画上映、関連イベントなどを行うテキサス州オースティンにある非営利団体)は、あくまで自己研鑽のための活動でした。ある年のカレンダーには、ゴダールの回顧上映が17本も組まれていました。おもに初期作品を中心に、権利入手可能な作品を集めました。観客に向けて上映する一方で、私は友人数人と同居するアパートでそれらの作品を観ていました。5回以上観たと思います。こうして私は独自の映画教育を受けたのです」。

映画への深い愛情が、本作の制作動機となった。「今作は『勝手にしやがれ』のリメイクではありません。1959年にカメラを持って飛び込み、時代、人々、空気を再現したい。ヌーヴェルヴァーグの連中と一緒に過ごしたい。映画が作れると信じさせてくれた人々、『映画を作るべきだ』と確信させてくれた人々へのラブレターです」。

【写真を見る】初監督作品『スラッカー』を手掛けた、若かりし頃のリチャード・リンクレイター監督!(写真左)
【写真を見る】初監督作品『スラッカー』を手掛けた、若かりし頃のリチャード・リンクレイター監督!(写真左)[c]Everett CollectionAFLO

興味深いことに、リンクレイター監督は本作の制作を通じて、自身のキャリアを一度リセットするような感覚を味わったという。「この映画を作りながら、自分の経験をすべて消去しなければならないと感じました。カンヌ映画祭のプレミアの夜、友人に『28歳の気分で映画を作っていた』と話しました。自分の経験を消去して、初監督作品のメンタリティに戻ったようでした。個人的にも映画史的にも時間を遡る必要がありました。1959年以降の映画史、カメラの使い方、動きのあるカメラワークなど、のちに出てくる表現手法を消去しました。この映画のすべてのショットは当時の映画にあるものです」。

この過程でリンクレイターは、ゴダールも感じただろう初長編監督作品への不安と興奮を追体験した。「この映画は初監督作品を作ることについての映画です。私も『スラッカー』でそれを経験しました。映画の撮影スタッフは、私が作ろうとしている映画がなにについてのものかまったくわかっていませんでした。私の頭のなかにだけありました。非常に若く自信があり、可能性に興奮していましたが、同時に経験不足で不安でもあります。初期の映画にあるあの高揚感と不安、『この映画は大失敗するかもしれない』という感覚を捉えようとしました。自分を信じているけれど、ほかの誰も私のことなど信じていないかもしれない。そんな奇妙な感覚です」


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