樋口真嗣監督が「アバター」に見るJ・キャメロン監督の“矛盾”に共感。「矛盾があるからこその作家性」【「アバター」最新作公開記念特別連載】

樋口真嗣監督が「アバター」に見るJ・キャメロン監督の“矛盾”に共感。「矛盾があるからこその作家性」【「アバター」最新作公開記念特別連載】

2009年に3D映像革命を巻き起こし、現在も世界興行収入歴代1位に君臨するジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)。その待望となるシリーズ最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が12月19日(金)より公開となる。
最新技術をふんだんに投入した映像体験で、世界で空前のヒットを記録している本シリーズだが、最新作ではさらにスケールアップ!そこでMOVIE WALKER PRESSでは、日本を代表するトップクリエイターたちに「アバター」の凄さを語ってもらう特集連載を展開。

第3回は、日本屈指の特撮監督としても知られ、『新幹線大爆破』(25)がNetflixで好評配信中の樋口真嗣監督。今年秋に実施された「アバター」シリーズ再上映の際の劇場チラシに寄稿し、キャメロン監督を「希望という名の光」と綴った樋口監督に、「アバター」シリーズの魅力からキャメロン監督の功績まで存分に語ってもらった。

「アバター」はなにがすごいのか?樋口真嗣監督がその魅力を熱弁!
「アバター」はなにがすごいのか?樋口真嗣監督がその魅力を熱弁!撮影/河内彩

第1作で神秘の星パンドラに“アバター”として潜入した元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は、ナヴィのネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と恋に落ち、人類と戦う決意をする。2作目『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)では家族を築いたジェイクらが海へと戦いの場を移し、愛する者のために人類と対峙。侵略を退けることに成功するが、家族の命を奪われるという大きすぎる犠牲を伴った。そして最新作『ファイヤー・アンド・アッシュ』では、同じナヴィでありながらパンドラを憎むアッシュ族のヴァラン(ウーナ・チャップリン)が人類と手を組み襲来し、かつてない“炎の決戦”が始まる。

「誰もが見たこともないランドスケープを作り上げた。それも3Dで!」

――1作目の『アバター』の時から3Dにこだわり続けているジェームズ・キャメロンは、2作目の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』、そして最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でも3Dを貫いています。樋口さんは監督として、そういうキャメロンのこだわりをどう感じますか。

探検家としても知られるジェームズ・キャメロン監督
探検家としても知られるジェームズ・キャメロン監督Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「彼の3Dへの愛は本物だということに尽きるんじゃないでしょうか。ほかの監督は、流行っているからとか、コンサルタントやプロデューサーに焚きつけられてとかが多かったと思うけれど、キャメロンだけは違うということです。そもそも1作目の時から、自分で3Dの機材を含めていろいろとつくっていましたからね。映画の映像表現はたくさんあっても、やはり3Dが最強だと確信しているんだと思います。だからこそ、絶対に諦めないし、こだわり続ける。

そうやって彼が技術にこだわるのは、キャリアの出発点がSFXマンだったからかもしれない。キャメロンはロジャー・コーマンのニューワールド・ピクチャーズでSFXマンとして働いていて、当時からいろんなアイデアを出していたというのは有名な話です。ほかの監督よりもその分野に明るいし、やっぱりテクノロジーが好きなんだと思います」


――1作目は当時の3D映画の頂点的存在でしたが、その映像で樋口さんが凄いと思ったのはどういう点でしょうか。

「目の前に拡がる広々とした景色です。誰も見たことのない星だからこそのバカでかい樹木や、空に浮いている巨大な岩石。それを3Dで捉えた映像がやっぱり圧巻だった。3Dの表現には、向こうからなにかが飛んできてそれを避けちゃうみたいなものが多かったんですが、キャメロンの場合は圧倒的なランドスケープ。例えるならば、初めてグランドキャニオンやヨセミテ(国立)公園の絶景を目にした時の感動というか感覚。そういう風景はある意味、アメリカ人の原風景でもあるわけですよ。それをもっと拡張させて、誰もが見たこともないランドスケープを作り上げた、それも3Dで!だから圧巻なんです」

誰も観たことのない景色を堪能できる「アバター」シリーズ
誰も観たことのない景色を堪能できる「アバター」シリーズPhoto:『アバター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――確かに思わず息を呑むような瞬間がありましたね。

「僕はこの映画、全然知らないところを旅するような感覚があると思うんです。地球の常識が通じない未知の星での旅。空に浮かんだ巨石の間を大きな鳥にのって飛び回ったりするのは、いわば旅行の大きな魅力のようなものです。『ウェイ・オブ・ウォーター』でもみんな海に親しんで、マリンスポーツを楽しむような感覚がありましたよね。そういう映画だからこその映像が3Dで“体験”出来るのがこのシリーズのひとつの醍醐味だと思います。

ただし、その映像を実現するためにはとんでもない努力と苦労をしているのがメイキングドキュメンタリーでわかりましたけどね」

――ディズニープラスで配信中の「炎と水―メイキング・オブ・アバター」ですね。

「ほら、人間って、簡単なほうに流れてしまうものでしょ?やっぱりラクをしたいから。でも、ドキュメンタリーを観ているとキャメロンのチョイスはいつも大変な方向。そもそも、ナヴィ族のサイズですよ。人間と同じにすれば撮影も楽なのに、人間より1m前後大きいという微妙な設定にしているじゃないですか。そのサイズで部屋の中を動き回り、しかもそこには人間がいるとなると大きさの整合性をとるのが本当に大変なんです。手間はもちろんコストもかかる。僕たちだったら『そういうのやめたほうが無難だよ』になっちゃうけど、やってしまうんです、キャメロンは。あと、とても小さいところだけれど、1作目の車椅子に乗っていた時のジェイク。あの時、とても足が細いんです。麻痺しているから動かせず細くなっているというのもちゃんと表現している。そういうディテールにも絶対手を抜かないのがキャメロン。本当に凄いですよ。

そのメイキングに収められていたアクションでいうと、『ウェイ・オブ・ウォーター』の捕鯨船が沈みかかっているシーンは全部、モーションキャプチャで撮っていた。モーションキャプチャで出来るのは最初の段階だけで、それをデータとして整えたものを3DCGのなかに流し込まなきゃいけない。これは大変手間のかかることなんです。海のシーンも水中から水上までワンカット。画角の変化とか考えるとこれも大変なんだけどやっちゃっている」

パフォーマンスキャプチャのために、水中での撮影も行うキャメロン監督
パフォーマンスキャプチャのために、水中での撮影も行うキャメロン監督Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――いまの技術なら実際の水がなくても海を表現できるのに、それは選ばないのがキャメロンということですね。

「『アビス』(89)の撮影時は、まだ水中にレギュレーターがあって、そこに行けば俳優たちは空気を吸えたのに、このメイキングでは今回、みんな息を止めて何分潜水できるか記録していた。僕、キャメロン、みんなに人間であることを止めさせようとしているんだと思いましたからね。『君は魚になれ!』と言っているようなものだって(笑)。しかも、キャメロンのその要求にみんなが応えようとするでしょ?僕はもう、映画の撮影というより“聖なる儀式”のように感じてしまいました。そういうのもあって、僕はキャメロン、“神”だと思っていますから(笑)」

“聖なる儀式”によって生まれた「アバター」シリーズ
“聖なる儀式”によって生まれた「アバター」シリーズPhoto:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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