『エディントンへようこそ』アリ・アスター監督×ホラー作家・背筋が対談!SNS考察文化への考えや“一筋縄ではいかない物語”創造の舞台裏を語る

『エディントンへようこそ』アリ・アスター監督×ホラー作家・背筋が対談!SNS考察文化への考えや“一筋縄ではいかない物語”創造の舞台裏を語る

 『ヘレディタリー/継承』(18)で注目を集めて以来、単なるホラー作品には終わらない意欲的な作品を次々と放ち続けているアリ・アスター監督。そんな彼が、最新作『エディントンへようこそ』(12月12日公開)を引っさげて来日を果たした。コロナ禍と政治運動に揺れるアメリカの田舎町を舞台に、市長選挙の予想外の顛末を描いた本作。そこには、アスター監督らしいシニカルかつスリリングな視線が宿っている。そんな彼を、「近畿地方のある場所について」などで知られる人気ホラー作家、背筋が直撃。新作に込めた想いについて、話を訊いた。

【写真を見る】アリ・アスター監督、ホラー作家・背筋…日米気鋭のクリエイターがリアル対面!
【写真を見る】アリ・アスター監督、ホラー作家・背筋…日米気鋭のクリエイターがリアル対面!撮影/黒羽政士

物語の舞台は2020年、ニューメキシコ州の小さな町エディントン。コロナ禍で町はロックダウンされ、息苦しい隔離生活のなか、住民たちの不満と不安は爆発寸前。保安官ジョー(ホアキン・フェニックス)は、野心家の市長テッド(ペロド・パスカル)とマスクをするしないの小競り合いから対立し「俺が市長になる!」と突如、市長選に立候補する。ジョーとテッドのいさかいの火は周囲に広がっていき、SNSはフェイクニュースと憎悪で大炎上。さらに、ジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーン)は、カルト集団の教祖ヴァーノン(オースティン・バトラー)の扇動動画に心を奪われ、陰謀論にハマっていく…。

「この映画では、すべてがきれいに解決して、きっちりまとまるような印象を与えないことが重要でした」(アリ・アスター)

背筋「お会いできて光栄です。以前から監督のファンでした。『エディントンへようこそ』、楽しく拝見しました。これまでの監督の作品に通じる部分もあり、また新しい側面も発見できる新鮮な体験でした。作家としても、監督の作品にはつねに魅力を感じています」

アリ・アスター(以下、アスター)「ありがとうございます。こちらこそ名誉なことです。あなたの作品もぜひ読んでみたいです」

今年映画化も果たした「近畿地方のある場所について」など話題作を手掛けるホラー作家、背筋
今年映画化も果たした「近畿地方のある場所について」など話題作を手掛けるホラー作家、背筋撮影/黒羽政士

背筋「今回の作品はSNSが大きなテーマとして扱われている印象を受けました。監督の作品は、多くを語らないという特徴もありますが、SNS上で考察が頻繁になされています。このように作品がご自身の手を離れてSNSで考察されていく文化をどう捉えていますか?」

アスター「作品を世に送りだすことは、いつも大変なことです。あなたもそうだと思いますが、制作の段階では、自分と作品との間に強い関係があります。作品は自分のものであり、自分にとって意味のあるものなのですが、それを世に出すと突然観客のものになり、観客はそれぞれの映像体験をして、それぞれの結論に達します。

『エディントンへようこそ』には政治の要素や、現実に起こった事件についての逸話も含んでいます。そういう点では、誤解されるリスクもあり、見解の衝突が起こる可能性もあると思います。なかには悪意を持ってわざと誤解する人もいますからね。こういう時期を過ごすのは私にとって厳しいことで、葛藤したり防御的になったりします。こういった状況から抜け出す唯一の方法は、次のプロジェクト、次の作品に取りかかることだと考えています」

アリ・アスター監督最新作『エディントンへようこそ』は12月12日(金)公開
アリ・アスター監督最新作『エディントンへようこそ』は12月12日(金)公開[c]2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

背筋「なるほど。また、作中に出てくるキャラクターは各々の主義主張を持っていながらも裏側では極私的な思惑や葛藤を抱えていて、シニカルに切り取られてはいるものの、一面的に描いていないという部分に感銘を受けました。多くのキャラクターが複雑な内面を持っているうえに、行動や動機がバラバラで動いていくのがおもしろかった、と感じました。物語を単純化するならば、役割を分けることもできたと思いますが、あえてそれをしなかった理由や意図があったのでしょうか?」

アスター「そうです。この作品はインターネット上に生息している人々の物語です。彼らはそれぞれのサイロに閉じこもり、互いに遮断し合っている。お互いを見ようとしないし、その結果、見られもしない。周囲から無視されているとか、取り残されているとか、そんなふうに感じてしまうのです。一方で、インターネットを通じて彼らに届く情報の多くは、人間性を失うほど単純化されているじゃないですか。しかし結局のところ、私たちは皆、非常に複雑で、なにもかも単純なわけではありません。だからこそ、この映画では、すべてがきれいに解決して、きっちりまとまるような印象を与えないことが重要でした。人々の分断が細分化されている世の中ですから。


意欲作を世に送り出し続ける映画作家、アリ・アスター監督
意欲作を世に送り出し続ける映画作家、アリ・アスター監督撮影/黒羽政士

いま、この瞬間でさえ私たちはそれぞれあらゆる方向に進みうる道筋をたどっているのに、決まった答えを提示するのは皆がレンガの壁に向かって突進しているようなものだと感じています。なので、すべてをクリーンにして映画を終えるのは、間違っていると感じました。キャラクターがひと言では表現できない生き物であるという、ご指摘は本当にうれしいです」

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