『TOKYOタクシー』山田洋次監督と『国宝』李相日監督が東京国際映画祭で対談!田中泯は演技下手!?など衝撃トーク飛び出す
第38回東京国際映画祭で、大ヒット中の『国宝』(公開中)の李相日監督と『TOKYOタクシー』(11月21日公開)の山田洋次監督との対談が、10月30日にBASE Qで開催。互いをリスペクトしあいながら、様々な撮影秘話や俳優論について語り合った。
吉沢亮主演、横浜流星共演の『国宝』は、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げる主人公、喜久雄の50年を描いた壮大な一代記。倍賞千恵子、木村拓哉共演の『TOKYOタクシー』は、たった1日の旅がタクシー運転手と老女2人の人生を変えていくという珠玉のヒューマンドラマとなっている。
『国宝』は邦画実写映画として『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(03)の173.5億円に迫るメガヒットとなっているが、その要因について李監督に聞くと「他人事のように聞いてしまいます。記録は常にいつかは更新されますし、やっぱり観客の皆さんにそれだけ求められている作品が記録を作っていくと思っているので、その要素が一体なんだったのかを振り返るのは、だいぶ後になるかなと思います」と冷静に答えた。
山田監督は、「今日は僕の映画よりも『国宝』についていろいろと聞いてみたい」としたうえで、『国宝』について「この映画の構造、人間の配置は2人の男の話になっている。普通2人の男が主役だと、その間に女性が介在するけど、そうじゃない。芸の問題と、血筋というどうしようもない不条理なものが2人の間にあり、それをモチーフにしているところが『国宝』の非常に優れている点です」と絶賛し「その構造は、最初からあなたが考えたの?」と質問する。
李監督は「それは、原作者の吉田修一さんの発明だと思います。僕もかつて『悪人』(10)の後、歌舞伎の女形を題材に映画を撮りたいと思い始めた時期があったんですけど、その時はこの構造ではなかったです。真ん中に芸がある以上、芸にお互い身を捧げ、その苦しみを分かち合う。男同士の嫉妬よりも、それが2人を繋ぎ合わせていく。そういった美しさが終盤に訪れてほしいなとは思い、ああなりました」と解説。
さらに山田監督は、女形を演じた吉沢と横浜を称え「簡単に女形になれるわけがないけど、よくあんなにできたなあ」と感心すると、李監督は「それは本当に2人が根気よくやってくれたから。あと、教えてくれる方との巡り合わせもよかったと思いますね」と答えた。
山田監督から「稽古はどれくらいやったの?」と聞かれると「稽古を始めて1年と数か月で撮影が始まり、撮影中も撮影がない日は、あの2人は必ず稽古をするので、トータルで吉沢くんは約1年半かけてます」と李監督が回答。山田監督は「1年半かけてるんだ。でも別の意味で、1年半であそこまでできちゃうんだ!偉いね、2人とも」と驚きを隠せない様子だった。
李監督が「非常にストイックな2人です。また、2人ってところがよくて、お互いに相手を見ると、自分が負けているように感じてしまう。稽古で切磋琢磨していく過程が、そのまま役の関係性にもなっていきました」と吉沢と横浜を評すると、山田監督も「いい意味で競争になっていた」と大いに納得。
その後、両監督作に出演している田中泯の話題に。『国宝』の人間国宝、小野川万菊役で高い評価を受けている田中だが、映画デビュー作は山田監督の『たそがれ清兵衛』(02)だった。山田監督は当時を思い返し「しゃべってる声がバリトンのとてもいい声。しかも舞踏家だから、体は自由に動くだろうと思ってキャスティングしたけど、芝居が下手くそでどうしようもない。何日もリハーサルをしたけど上手くいかなくて。でも、それ以後、彼がいろんなテレビや映画に出て活躍するようになった。それなのに20年前と同じ芝居をしている」と辛口コメントが飛び出し、会場から笑いが起きる。
李監督も少し笑いながら「それは、どう下手くそなんですか?」と真意を尋ねると、山田監督は「棒読みで、なんか安っぽい田舎芝居みたいな言い方をする。でもそれを20年もやっていくと、笠智衆になる。『そろそろ、あなたに“笠智衆”という冠をあげてもいいんじゃないか』と泯さんに言ったの」と歯に衣着せぬ山田節が全開に。
「でも、笠さんも若い時からすごく真面目な人で、一生懸命、芝居の稽古をするけど、まったく上達しない人だった。そういう笠さんの人柄を、小津安二郎は非常に高く評価したんじゃないかな。笠さんも最後まで下手くそな人だったけど、笠さんのような役者はいなくて。ただそこにいるだけでいい。『大事なのはあなたの芝居じゃなくて、あなたの存在そのものなんです』と言いたくなるんです」と、笠と田中の唯一無二な存在感を高く評価した。
李監督は田中について「僕は下手くそだとは思ってなかったんですけど、山田さんがおっしゃるように存在感がいい。また、独特の肉体の動き方をされるので、そこが組み合わさった時に、魔力のような存在感となる」と称えた。
続いて話題は『TOKYOタクシー』に。2022年製作のフランス映画『パリタクシー』を日本を舞台にリメイクした本作だが、劇中で木村演じる運転手の日常が描かれている点が山田監督ならではの変更点だ。山田監督は「日本だったらこういうことになるんじゃないかと考えてみたわけ。僕の場合はああなっちゃう。朝飯を食うところがどうしても欲しかった。後半で激しいシーンがあるから」と説明。
劇中では木村演じる運転手が、納豆をかき混ぜるシーンもあるが、山田監督は「前の年に、彼はパリの一流のシェフをやっていたのに、僕の組では納豆か!とみんなで笑ってたんだよ」と映画『グランメゾン・パリ』(24)を引き合いに出し、会場の笑いを誘った。
李監督から「木村拓哉さんですが、『武士の一分』(06)から変化みたいなものを感じましたか?」と聞かれると、山田監督は「いや。同じように真面目だなと思いました。彼はそういう人で、自分の出番がなくなっても、ちゃんといつも終わりまでセットにいるし、自分の出番が2番手、3番手でも最初からちゃんと来てる。大物は普通、平気で遅れてきたりするけど、彼は全然そういうことをしない。きっとそういうふうに生きていくと決めてるのかな。なかなかの男だと思います」と木村を心から称える。
ティーチインでは日本の古典芸能を映画にする難しさや、映画との相性について問われた2人。山田監督は「僕の映画、特に『寅さん』は原作が落語であるといってもおかしくないと思います。つまり、落語における人間の捉え方や描き方を、そっくりそのまま真似て『寅さん』を作ったつもり。子どもの頃から落語が大好きで、落語は人間をこういう角度から見ると、こんなに可笑しかったりするんだよということを教えてくれる。それをそのまま映画にしたのが『寅さん』です」と、「男はつらいよ」シリーズと落語との関係性について言及。
李監督は「歌舞伎は伝統芸能で、非常に敷居が高いと思われている部分がありますが、元々は庶民の娯楽です。いろんな庶民の喜怒哀楽や、仇討ちに代表されるような人間の業とか、いろんな感情が劇になっているエンターテインメントだと思っています」と、映画との親和性についても語った。ティーチインもかなりの盛り上がりを見せ、大盛況のまま貴重な対談は終了した。
文/山崎伸子

