『トリツカレ男』高橋渉監督、キャラクターデザインの重要性を熱弁!「クレヨンしんちゃん」と通じる部分にも言及
映画『トリツカレ男』(11月7日公開)のMOVIE WALKER PRESS試写会が10月23日、神楽座にて開催され、上映後のトークイベントに高橋渉監督が登壇した。
いしいしんじの同名小説を原作にミュージカルアニメーションとして映画化した本作。なにかに夢中になると、ほかのことが一切見えなくなってしまうため、周囲に“トリツカレ男”と呼ばれている主人公ジュゼッペが、公園で風船を売っている女の子ペチカに恋に落ちることから展開するラブストーリーだ。ジュゼッペ役にはAぇ! groupの佐野晶哉、ペチカ役は上白石萌歌。それぞれ劇中歌の歌唱も担当している。ジュゼッペの相棒である、ハツカネズミのシエロには柿澤勇人、そのほか山本高広、川田紳司、水樹奈々、森川智之もキャストに名を連ねている。
ミュージカルアニメにすることは初めから決まっていたと明かした高橋監督は「最初はびっくりしたけれど、このお話にはピッタリ合っていると思いました」と原作とミュージカルの親和性に触れる。歌を作ったうえで、歌に合わせて動きを作ることが、アニメでミュージカルを作る難しさだったと制作を振り返り、「このキャラクターデザインのお陰で活き活きと動かすことができました」と荒川眞嗣が手掛けた個性的で愛らしいキャラクターデザインに感謝。「線が少ないので、たくさん描いても苦じゃない(笑)。みんな楽しんでやっていました」とチームの制作時の様子も明かしていた。
こだわったのは窓辺のシーンだという。「窓越しで向かい合うシーンは動きが作れない。だからこそ、やりがいがあると思いました。(動きが作れない分)お互いの気持ちがよりよく伝わるだろうという計算もありました」とニッコリ。「窓の大きさがカットごとに変わっている。そこがアニメのおもしろいところです」と解説した高橋監督は「心象風景などが混じりつつ、というのがあるので」と補足。冒頭から画の力、アニメーションならではの画の“嘘”の力が作用したとし、それがうまく積み上がっていたことにより、どのような画が出てきても観る側に「素直に受け入れてもらえたのかな」と予想していた。
そして、ここでもキャラクターデザインを手掛けた荒川の表現が話題に。「荒川さんはライティングにこだわります」と話した高橋監督は「どこに影を置くのかを重要視しています。カットごとに光源が違います」とし、より綺麗に見せることに重きを置いていると説明。続けて「舞台のように見せたいという意向がお互いにあって。そのトーンで映画を作れたのはとても貴重です」とうれしそうに語っていた。また、ポスタービジュアルに映る帽子を被ったジュゼッペ(ポスターには様々なものに”トリツカレた”ジュゼッペがペチカの笑顔のために奮闘する姿が描かれている)の影については、「照明効果のように見せたいから影をつける。そういう割り切りで作っています。この顔の影も影が多いほうがかっこいいからという理由で(多めに入れて)作っています。意図を明確にして作りました」とニヤリとしながら解説していた。
どのキャラクターにも思い入れがあるとしたうえで、お気に入りは「シエロくん」と解答した高橋監督。理由は「一番、原作と違う動きをするから」と映画ならではの魅力に触れ、「映画ではシエロくんには能動的に動いてもらっています。一番お客さんの目線に近いキャラクターかもしれません」と語る。さらに「ジュゼッペはエキセントリック、ペチカはミステリアスなので、シエロくんに軸を置いて作りました」とシエロの役割を明かす。そしてシエロを語る場面でもキャラクターデザインの話題になり、「荒川さんに『ネズミのキャラクターが出てくるんです』と伝えたら、『ガンバですね!』と即答でした」と笑顔に。テレビアニメ「ガンバの大冒険」のシルエットなどをリスペクトした形で落とし込んだそうで、「あの時代のアニメは勢いがあってとてもパワフル。その力を入れたいと思いました」とし、トークイベントに一緒に出席したシエロのぬいぐるみを手に「ジュゼッペとシエロのサイズ感(の違い)で、より大胆な構図作ることができました」とも説明しながら、愛おしそうにシエロを眺めていた。
長きに渡り「クレヨンしんちゃん」シリーズに携わっている高橋監督。どこかしんちゃんと通じるものを感じるという声があがるそうで、「周りを振り回すキャラクターという意味では通じる部分がありました。あとはデザイン。どっしりしていなくて、アンバランスでフラフラしているものを作るのは実はアニメでは難しくて。不安定感のあるキャラを動かすのは難しい。そういう意味でもこのデザインじゃないとできなかったのかな?と思います」と再びキャラクターデザインの力に言及し感謝。さらに「ジュゼッペは変なヤツと思われているけれど、愛嬌があってただの変なヤツではない。なにをしでかすのだろうと思ってもらわなきゃいけないキャラクターなので、そういう点においてもすばらしいデザインだったと思います」と、本作を手掛けるうえで、キャラクターデザインがどれほど重要な役割を果たしたのかを、繰り返し強調していた。
「クレヨンしんちゃん」で重ねてきた経験が活きた箇所や、影響したことはあったのかという質問に「線の少なさは同じくらいかな…」とポスターのジュゼッペを見つめ、「コンテを描いていてしんちゃん的ななにかを感じられたのはギャグのシーンです。見せ方のタイミングなどはしんちゃんを引きずっていたのかも。テンポという意味では似ていたのかな」と回答していた。
アフレコ現場は「ずっと楽しかったです」と満足の表情を見せた高橋監督。アフレコは基本的に1人ずつで、佐野、柿澤、上白石の順番で収録。スケジュールがうまく重なった日には掛け合いのシーンを一緒に収録できたそうで、その様子について「別々で録るよりも雰囲気が格段によくなります」と振り返った高橋監督。シエロがジュゼッペに対してペチカに声をかけるように促すシーンでの掛け合いが特に印象に残っているようで、「やっぱり役者なんだなと思いました。横に演じる人がいると掛け合いが活き活きとします。より2人(でやること)が重要だと感じました」と力を込めていた。
そんな高橋監督にMCから「監督からなかなかOKが出なかったシーンもあったと伺っています」との質問が及ぶと「佐野さんの歌のシーンですね」と微笑む。何度もテイクを重ねた結果、スタッフから歓声が出るほどブースが大盛り上がりだった素晴らしいシーンになったと収録の様子を伝え、「でも、僕にはキレイすぎた。(歌が)上手すぎたんです。ジュゼッペの破天荒な部分がもっと欲しいと思って、つい(もう1回!と)言っちゃった」とニヤリ。高橋監督のリクエストに「佐野さんは文句ひとつ言わずに、見事に現在のOKテイクにしてくれて。上手さに甘えて無茶な注文をしてしまいましたが、すべてこなしていただきました。本当に素晴らしかった」と大絶賛。高橋監督の大絶賛コメントは止まらず、「こんな若者がいるのなら、日本は大丈夫だなって思いました。上白石さんも、柿澤さんも本当に素晴らしかったです!」と、メインキャラ三人の歌唱に太鼓判。
また「森川さんにタタンをやっていただけて本当によかった」と力を込めた高橋監督。タタンというキャラクターについては「偉そうに見えたら嫌だなと思っていて。人柄のよさが出て欲しかったし、そういうキャラクターであることを森川さんにも伝えたら、見事にタタン先生をやってくださいました」と思い通りのタタンになったことに感謝していた。
最後の挨拶で高橋監督は「映画を観て心がポカポカになったのではないかなと思います。もし気に入ったら、ぜひ周りの方におすすめいただければと思います。お力をお貸しいただければ!」と呼びかけトークイベントをしめくくった。
本作は、10月27日より開催の第38回東京国際映画祭にてアニメーション部門正式招待作品として上映が決定している。
取材・文/タナカシノブ
※高橋渉監督の「高」は「はしご高」が正式表記

